【ARUHIアワード12月期優秀作品】『約束の日』夏川路加

 参加者が揃ったところで、同窓会の幹事である藤崎が言った。
「さて、さっそく始めましょう!」
 タイムカプセルは、卒業式の前日に桜の木の下に埋めていた。皆で思い出話をしながら、協力して土を掘り返す。
 しばらく掘ると、ビニールに包まれた洋菓子の箱や茶筒などがざくざく出てきた。その中に俺のタイムカプセルもあった。泥だらけで、箱のあちこちが腐食している。
 その場でさっそく開封してみたら、20年後の自分へ宛てた手紙が入っていた。紙が湿っていて所々読みにくかったが、要約するとまあこんな感じだ。
「20年後のぼくへ。きっと大金持ちになってるよね!」
 残念、無職だ。期待に応えられず申し訳ない。

 その夜、駅前の居酒屋に再集合して同窓会が行われた。
 俺は気が進まないので帰ろうとしたのだが、幹事の藤崎に是非と請われて参加することになった。
「綾子、2人目生まれたんだって? おめでとう!」
「うん。すっごいやんちゃな子でね」
 女子たちは子供の話や、旦那の愚痴で盛り上がっている。かたや俺のいるテーブルの話題は、もっぱら「仕事ができる俺」自慢であった。
「忙しいけどやりがいはあるよ。給料もいいし」
「俺、こないだ昇進したんだ」
 やっぱり来なければ良かった。
 俺はビールをちびちび飲み、誰も手をつけない唐揚げをひとりで黙々と食べていた。
 すると藤崎が気を遣ったのか、俺に話を振ってきた。
「一樹って、家電の店で働いてたよな?」
「ああ。でも潰れた」
「あ……ニュースで見た。一樹のとこだったのか」
 周りにいる連中が、気まずそうに目を逸らす。こうなることは分かっていた。
 気まずさに耐えかねてトイレに行こうとしたら、恵子先生に呼び止められた。
「待って、三上くん」
「なんですか?」
「倉持くん欠席だから、ひとまず先生が預かっておいたんだけど」
 恵子先生が、タイムカプセルの入った紙袋を俺に押しつけてくる。
「三上くんが届けてあげて?」
「いやでも、卒業後は会ってないですし……」
「じゃあお願いねー」
 恵子先生は、離れた場所にいる女子グループに呼ばれて去ってしまった。
「一樹、それ何?」
 藤崎が紙袋をのぞき込んでくる。
「武雄のタイムカプセルだってさ」
「たけお……?」
 その場にいる全員が首を傾げる。思い出せないのも仕方ない。武雄は確かに、クラスで影の薄い存在であった。
「あっ、倉持か! 小六の一年だけ一緒だったよな」
「ああ~アイツか!」
「彼の噂を、聞いたことあるよ」
 手を挙げたのは、テーブルの一番端にいる三島という男だった。
「三島、噂って?」と藤崎。
「大学時代の友達が、倉持くんと同じ高校だったみたいで……。なんでも高価な健康食品を売りつけるような、いかがわしい商売やってるって聞いたよ」
「真面目そうな奴だったのに。悪いことしてんだなぁ」
「そりゃ、同窓会になんて顔を出せないか!」
「アイツの話、卒業してからは全然聞かないよな?」
「もしかしたら、もう亡くなってたりして……」
「実際にそういう噂も聞いたことあるよ?」と三島。
「確かに、同窓会のハガキ出した時もあいつだけ住所分かんなかった……」と藤崎。
 俺はちょっと苛立ちながら、話を聞いていた。よく知らない人間については、みんな勝手だし冷たいものだと思う。
 何はともあれ、俺は20年越しの忘れ物を手土産に帰ることになった。

 その夜は、実家で一泊することになっていた。
 高校生の時まで使っていた自分の部屋で、先生から預かったタイムカプセルを取り出す。泥の付着した茶筒を机に置いて、どうしたものかと頭を抱える。
 俺は武雄につながる手がかりを求めて、タイムカプセルを開けてみることにした。茶筒の中に当時流行っていたチョコ菓子のおまけのシールや、小さな怪獣のフィギュアが入っていた。

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