今までの日々の小さな変化が書き込まれていた。
なんでもないある日が、屋鳴のカレンダーでは記念日になっていたのだ。
「これ、俺が作ってみたかったカレンダー。誰かの為だけのカレンダーってのを作ってみたいって、屋鳴さんを見ていて思いました。屋鳴さんのカレンダーがヒントになったんですよ。」
自分の考えが形になっただけではない。目の前の人間を動かす何かがそこにあったのかと思うと、達成感とはまた違った、こそばゆい感情が湧きあがってくる。
この無表情男と出会って、自分は変わった。環境に流されるのではなく、自分で考え意志を持って動く。それと同時にこの男も変わったのかもしれない。
小読製作所を訪れたあの日は他の人から見ればなんでもないある日。しかし間違いなく二人にとっての記念日だったのだ。恋愛感情などない、全く色気のない記念日ではあるが。
「そう言えば、名刺を出した時に変な顔しましたよね?私の名前に覚えでも?」
大安は急に表情を硬くしたが、すぐに笑みがこぼれ始めた。
「だって住宅を売るのに、名前が屋鳴響ですよ。一瞬冗談かと思いましたよ。でも笑うのも失礼だと思って。」
屋鳴は唖然とした。だが少し嬉しくもあった。
この男はこんな風に笑うのか。
「カレンダーを作る大安大吉には負けるけどね。」
屋鳴も笑った。そして鞄からペンを取り出し、来年の今日の欄にこう書き加えた。
―無表情男が笑った日―
また何でもない日が記念日に変わった気がした。
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