【ARUHIアワード12月期優秀作品】『僕たちの手作り弁当』佐藤勉

 堺がそう言って「ハハハハ」と高笑いした。らしく? どういう意味だ。
「山下。おまえは気づいてないな。――俺の話を落ちついて聞けよ」
 僕が首をかしげていると、堺は続けた。
「――太一郎と由夏ちゃんは、つきあっているようだ」
「え?」堺の突拍子もない話に、僕はポカンとして由夏と太一郎くんを交互に見る。
 ふたりは照れて、黙りこんだ。
「そのとおりだよな、太一郎」
 太一郎くんが恥ずかしそうに「うん」とうなずく。
 由夏は僕の視線を避けて、嫌がるように横を向いた。
「さっきふたりが廊下で立っていた姿を見て、俺はピンときたんだ」
「なぜだ?」僕が堺に訊く。まだ半信半疑だ。
「ふたりはぴったりと体を寄せあうように立っていたからね。ふつうの部員同士だったらそんなことはしない。恋人だから無意識のうちにそうなったのさ」
 確かに体を近づけていたが、そんなことはまったく考えなかった。堺の観察力には恐れ入る。
 ふたりは顔をまっ赤にしてうつむいてしまった。由夏が反論しないところをみると事実のようだな。
「太一郎くんとはいつから交際しているんだ」
 おそるおそる尋ねてみる。
「去年の夏から」
 半年か。その間、僕に報告がなかった。
「ごめん、お父さん」
 由夏が小さな声で言った。
「いつかは話さなければいけないと思っていたんだけど」
「由夏が幸せならそれでいい……。気にしなくていいから」
 娘の目が見られなかった。
「なあ山下。俺は、息子の彼女が由夏ちゃんで安心してる。おまえもそう思うだろ?」
 堺に同意を求められて、僕は「うん」とうなずいた。どこの馬の骨ともわからない男よりはいい。
 だけど心に一抹の寂しさが残った。娘が僕からどんどん離れていくような気がして。それを共有できる唯一の存在である妻がこの世にいないだけに、余計につらい。
 もう限界だった。
「さあ、君たちは弁当を食べなさい。僕は、堺と一緒に飲み屋に行くから」
「え、これからか?」
 堺が僕を見た。
「そうだ。卒弁式の打ち上げだよ。今日は僕たちにとって最高の記念日だから、祝杯をあげようと思ってね」
「なるほど、祝杯か。山下、おまえはいいことを言う!」
 先に帰ると由夏に宣言して、僕と堺は部室から飛び出した。
 廊下に出たとき、今まで止まっていた涙が一気に流れてきた。廊下をまっすぐ歩けないくらいに――。

「ARUHIアワード」12月期の優秀作品一覧はこちら
「ARUHIアワード」11月期の優秀作品一覧はこちら
「ARUHIアワード」10月期の優秀作品一覧はこちら
「ARUHIアワード」9月期の優秀作品一覧はこちら 
※ページが切り替わらない場合はオリジナルサイトで再度お試しください

~こんな記事も読まれています~