【ARUHIアワード12月期優秀作品】『僕たちの手作り弁当』佐藤勉

 由夏と太一郎くんが同時に言い、僕たちにA4版、厚さが1センチほどある青色の冊子を手渡した。
 受け取ると、冊子はハードカバーだ。表紙の上に「パパたちのおべんとう」と表題が大きく書いてある。
「これが、僕たちに贈ると言っていた卒業制作の正体か」
「はい。お父さんが3年間作ってくれた手作り弁当のフォトブックです」
 僕の問いかけに由夏が答えた。
「あたしと堺くんは、食べる直前に、お父さんたちが作ってくれた弁当の写真を1年生の頃からデジタル一眼レフカメラで撮り続けてきました。ひとり400枚、ふたりで800枚あります。これを手作りのフォトブックにしてお父さんたちにプレゼントしようと考えたんです。すべてを載せるのは無理だったので、その中から50枚ずつをピックアップしました。合計100枚載せてあります」
 フォトブックは全部で50ページ。1ページあたり2枚の弁当の写真がカラーで載っている。それぞれの写真の下には、日付、「ハンバーグ弁当」「焼きサバ弁当」などの弁当の名前と、40字くらいのコメントが添えてあった。
「これだけのものを作るのは大変だっただろう?」
 堺がブックをめくりながら目を丸くする。
「3学期の期末試験が終わってから僕たちは急ピッチで編集作業をしました。だけど間に合わなくて、2月に入ってからは放課後、夜遅くまで残って作業を続けたんです」
 太一郎くんの説明に納得した。それで帰りが遅かったのか。
「今日のことは、秘密裏に進めてきました。帰宅が遅くなった理由を正直にお話できず、申し訳ありませんでした」
 彼氏と遊んでいたと勘ぐった自分はとんでもない誤解をしていたものだ。由夏、ごめん。
「あたしたちの作業を、伊達先生が手伝ってくれたんです。ね、先生」
 由夏が部室の後方へ視線を送る。
 いつの間にか、顧問の伊達先生が僕たちのすぐ後ろに立っていた。僕と同年代の女性の先生だ。
「堺さん、山下さん。卒弁、おめでとうございました」
 ブラックのパンツスーツを身にまとった先生が頭をさげた。
「特定の生徒のために手を貸すのはどうかとためらいましたが、由夏さんと太一郎くんの、お父様に対する気持ちに私も心を打たれたので協力することにしました。堺さんにお電話を頂いたときに具体的な内容をお話できず、申し訳ありませんでした」
 そういう理由なら、とがめることはない。
「由夏、太一郎くん。ありがとう」
 3年間の集大成だ。僕にとって素晴らしい宝物ができた。
 堺は右手で自分の目を押さえていた。
「おまえら……俺を泣かせるなよ」
 感極まったようだ。
 いつも強気な彼らしくないが、気持ちはわかる。こういうときは思いっきり泣いてもいいかな。だけど、男が人前で涙を見せるのは恥ずかしい。必死にこらえた。
 ふたりにあれを早く渡そう。フォトブックのいいお返しになる。
「君たち、そろそろおなかが減ってきたんじゃないか」
 僕は持っていたバッグから風呂敷包みを取りだした。中に二段重ねの重箱が入っている。
「ふたりのために弁当を作った。今日の朝、僕の家に集まって堺と共同でね。メニューを事前に考えるのは今までやってきたけど、一緒に作ることはなかった。3年間で初めての共同制作の弁当さ」
 司会役の生徒が用意してくれた机の上で、一辺が30センチほどある正方形の重箱のふたを開けた。重箱の上段には鶏のから揚げ、サバの塩焼き、煮物、卵焼き、サラダなど9種類のおかずを、下段には俵型のおにぎりをすき間なく詰めておいた。
 由夏が「すごい。おいしそう!」と言って、目をぱちくりさせた。
「そうだろ? フォトブックには載らない特別品だぞ」僕が豪語した。
「高校生活最後の弁当をふたりで仲良く食べてほしい。おまえたちらしくね」
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