3月、4月は入学や転勤など新生活にともない、新たにアパートやマンションを借りる人が増える季節です。特に2020年4月1日以降の賃貸借契約は、120年ぶりの民法改正で、あいまいだった借りる側と貸す側のルールが明文化されます。契約書の日付が3月か4月かで適用される民法のルールも変わります。民法改正で知っておきたいルール変更6つのポイントについて解説します。
4月1日からの賃貸借契約6つの変更点
今回の民法改正で賃貸借契約に関わる変更点は以下の6つです。
1. 連帯保証人の債務保証のルール
2. 契約中の修繕に関わるルール
3. 一部滅失による賃料減額のルールの明確化
4. 契約中に所有者が変わったときのルール
5. 契約終了後の原状回復義務のルール
6. 契約終了後の敷金の返還に関するルール
それぞれの内容を見ておきましょう。
1. 連帯保証人の債務保証のルール
賃貸借契約の連帯保証人が支払いの責任を負う金額の上限は、改正前の民法では明確になっていませんでした。連帯保証人は入居者と同じ責任を負わなくてはならないため、入居者が家賃を滞納し続けたときの家賃や利息、建物や設備を壊したときの修繕費など損害賠償金等の費用をすべて請求される可能性があります。
2020年4月1日以降の賃貸借契約では、個人が連帯保証人となる場合はその保護のため、「債務極度額の明記」が義務づけられます。具体的には賃貸借契約書に連帯保証人が負う最大の負担額を「○○円まで」など明記しないと契約が無効となります。
また、個人の連帯保証人の代わりに保証会社の保証を利用する場合は、法人ですので極度額を定める必要はありません。保証会社に債務保証をしてもらう場合、入居者は保証会社の審査に通り保証料を納めることが前提となります。連帯保証人になってくれる人がいない、親や子、兄弟に迷惑を掛けたくないなどの理由で保証会社を利用する人が増えていますが、今後は債務保証の観点から、大家さん側から保証会社による保証を求められるケースも増えるかもしれません。
2. 契約中の修繕に関わるルール
借りている部屋のトイレの水漏れやエアコンの故障、洗濯機や風呂の排水管が詰まったなど日々の生活にすぐに支障をきたすような不具合があっても、建物や設備の所有者は大家さんですので、入居者は勝手に修繕を行うことはできません。
しかし、こうした不具合を伝えたのに大家さんの都合ですぐに修繕してもらえず、自分では一切修繕できないとなると不便ですし、被害が大きく広がってしまう可能性もあります。改正前の民法では入居者が修繕を行った場合、どこまでを大家さんに請求できるのか明確なルールはありませんでした。改正後は、修繕が必要であることを伝えたのに大家さんが相当な期間修繕をしてくれなかった場合や、次の台風までにどうしても屋根の修繕をしたいなど事態が急迫しているときは、大家さんの対応前に入居者が修繕しても、修繕費の請求ができるというルールになりました。
なお、雨漏りや水漏れなどを発見したときの通知義務は入居者側にあります。故障や不具合を知っていたのに通知せず、被害が大きくなってしまった場合の損害賠償責任は入居者です。くれぐれも第一報は素早く行いましょう。
3. 一部滅失による賃料減額のルールの明確化
入居者の理由によらずシャワーやトイレなどが故障して使えなくなった場合、改正前の民法では、入居者は大家さんに「賃料の減額を請求することができる」というルールがありました。改正後の民法ではこの文言が「賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、賃料は減額される」と強い表現に変わりました。
今回の改正で、どのくらい壊れたらいくら減額できるのかという基準は明確にはなっていませんが、設備の故障等において、大家さん側の修理の対応責任は強まったといえるでしょう。
4. 契約中に建物の所有者が変わったときのルール
いわゆるオーナーチェンジ等で借りている部屋や建物の所有者が変わった場合のルールが明確化されました。改正前は、入居者が新旧どちらのオーナーに賃料を払ったらよいかわからず家賃を払っていないとき、新しい所有者が入居者に家賃の支払いを求める明確なルールがありませんでした。改正後は、不動産の所有権移転登記が行われていれば、登記簿上の所有者がオーナーとなり、賃料の請求ができることが明記されます。
5. 契約終了後の原状回復義務のルール
これまで法律ではなく国土交通省のガイドラインによって運用されていたルールが改正後の民法で明文化されます。原状回復義務とは借りていた部屋を元の状態に戻して大家さんに返すことです。一般的には部屋を普通に使用していたことによって生じた消耗(通常損耗)や経年劣化は原状回復の対象外と解されていますが、改正前の民法には基準が明記されていませんでした。
部屋の損傷が通常損耗や経年劣化なのか、入居者の故意や過失によるものかの判断はむずかしいところですが、具体的なイメージが法務省のパンフレットに示されています。さらに詳しい内容については国土交通省の「原状回復とトラブルをめぐるガイドライン」や「賃貸住宅標準契約書」をご覧ください。なお、民法改正を受けガイドラインや標準契約書は再改訂が進められています。
・通常損耗・経年劣化に当たる例、当たらない例
6. 契約終了後の敷金の返還に関するルール
敷金とは入居者が大家さんに対し部屋を借りている間預けておく保証金のようなお金です。原則として退去時には全額返還されますが、滞納した家賃等があれば敷金から差し引かれます。しかし、実際の退去時には先に述べた原状回復の基準があいまいで、故意や過失とは関係のない、経年劣化による修理代まで敷金から請求されてしまうことがあり、トラブルの元となることがありました。
今回の民法改正で、退去時に家賃の滞納があったとき、敷金から支払うことが明記されました。原状回復義務の明確化とともに、今までガイドライン等で示されていた退去時のルールが民法に明記されたことで、敷金返還のトラブルを防ぐことも期待できそうです。
改正後の賃貸借契約の方向性
改正後の民法が適用される賃貸借契約は原則として2020年4月1日以降の契約からとなります。たとえば2020年3月1日に契約して入居し、2022年2月に退去して退去時にトラブルが発生した場合、旧民法が適用されます。
今回の改正では、すでに商慣習として行われているガイドライン等を民法に明文化したという意味合いが強くなっています。しかし、退去時の原状回復や敷金返還、修繕についてのルールを明確化したことで、より入居者側の権利を守る改正となっています。
初めてアパートを借りる方、社宅等ではなく個人で賃貸借契約を結ぶ方は特に、入居中や退去時のトラブルを避け、自分が不利益を被らないように、民法改正の意図や変更点をチェックしておきましょう。
参考サイト
法務省:賃貸借契約に関するルールの見直し
国土交通省:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
国土交通省:『賃貸住宅標準契約書』について