今年もまた確定申告の時期がやってきました。確定申告は所得控除などの適用を受けることで払い過ぎてしまった税金を返してもらうイメージが強いですが、実は、確定申告をすることで思わぬ負担増になるケースもあります。今回は、確定申告をすることで負担が増えてしまうケースについて見ていきます。
1.給与取得者で副業収入などがあるケースでは要注意
まず、確定申告の要否から確認していきましょう。
収入が給与収入のみの場合には、会社が税金を源泉徴収して、年末調整で税額の計算と過不足の調整がされるので基本的には確定申告をする必要はありません。ただし、医療費控除・雑損控除、住宅ローン控除を受ける(初年度)など一定の控除を受ける場合、また保険の満期など臨時の収入があった場合、2ヶ所以上から給与収入がある場合、給与収入が2,000万円を超えている場合等には、確定申告が必要です。
したがって、仮に本業以外にアルバイトなど副業で収入があった場合にも基本的には確定申告をする必要があるわけです。
ただ、副業などによる収入が別途あった場合でも、
・給与所得と退職所得以外の所得が20万円以下の人
(保険の満期金を受け取った場合や不動産賃貸による収入、アフィリエイトによる収入など)
・2ヶ所以上から給与を受けている人で、本業の給与以外の給与の収入金額と退職所得以外の所得との合計額が20万円以下の人
は確定申告をしなくてもよいことになっています。
つまり、本業以外にちょっとしたアルバイトで給与収入が20万円あった場合や不動産賃貸による所得が20万円あった場合でも確定申告をせずに年末調整で納税を完了させることも可能、というわけです。
本業の給与収入以外に収入がない人、自営業者の人など確定申告がそもそも必要な人は、確定申告をして、医療費控除、ふるさと納税、雑損控除などの所得控除を申請しても損をすることはありませんので気にする必要はありませんが、本業以外に収入や所得があり、かつ、上記の確定申告をしなくてよい要件を満たしている人は要注意です。
例えば、以下のケースで考えてみましょう。
本業の給与収入(500万円)
不動産所得が別途20万円(経費を控除した後の金額)
その年の医療費の支払い15万円(5万円の医療費控除を受けられる)
(その他の要素は考慮しない)
確定申告不要の要件を満たしているので、確定申告をしない選択も可能です。ただし、その場合には医療費控除は受けられません。
一方で、確定申告を選択すると、医療費控除は受けられますが、不動産所得20万円も申告する必要が生じてしまい、結果的に20万円-5万円=15万円分、確定申告をしない場合よりも所得が増えてしまうのです。
副業など本業の給与収入以外に収入や所得がある場合には、「所得から控除される金額>申告をしなくてよい所得の金額」であることをしっかり確認しましょう。
2.株などの譲渡損益を通算すると、負担増になるケースも?!
最近の株価上昇を受けて、株式や投資信託などの取引で収益が出た、という人も多いかと思います。株式や投資信託などを売却して出た収益は「源泉徴収ありの特定口座」を選択していれば、税額の計算や納税を金融機関が投資家に代わって行ってくれるので確定申告をする必要がありません。
ただ、株式や投資信託の運用では売却益だけでなく、損失が出る場合もあります。
例えば、A株式を売却して30万円の売却益が出たけれど、B株式を売却したことで20万円の売却損が出た、といったケースです。
このように、株式などを売却して損が出た場合、同じ年に収益があればそれらを相殺することで、収益にかかる税金を減らしたりゼロにしたりすることができます(損益通算※といいます)。
先ほどの例で考えると、売却益30万円-売却損20万円=売却益10万円となり、10万円分に対してだけ税金を支払えばよい、ということです。
もし売却損が30万円であれば、収益はプラスマイナスゼロなので、税金はかかりません。
また、収益よりも損失のほうが大きくて、損益通算してもまだ損失が残っている場合には、翌年から最大3年間、損失を繰り越して、翌年以降の所得と通算することができます。
株式や投資信託などの取引をすべて1つの金融機関の「源泉徴収ありの特定口座」で取引をしていれば、損益通算や税金の計算や納税は金融機関が行ってくれるので、投資家が特に何も手続きをする必要はありません。
(「源泉徴収なし特定口座」も損益通算は口座内で行われます。)
一方で、複数の金融機関の特定口座間で損益通算するケースや、特定口座と一般口座の間で損益通算をする場合、あるいは残った損失を翌年以降に繰り越す場合には、確定申告をする必要があります。
確定申告をすることで、すでに源泉徴収されていた税金を取り戻せるので節税にはなりますが、実は注意点もあります。
例えば専業主婦の場合、配偶者の合計金額に応じて配偶者控除、配偶者特別控除が受けられますが、株式などの取引で所得が増えると控除の枠から外れてしまい、結果的に世帯の税や社会保険料負担が増えてしまうことがあるのです。
一方で株や投資信託の取引でどんなにたくさんの儲けが出ても、「源泉徴収ありの特定口座」で課税関係を終了させて確定申告をしなければ、配偶者控除には影響しません。
したがって、確定申告をするかしないかは、株式等投資の利益の還付税額と合計所得金額が増えることによって生じる、配偶者控除・配偶者特別控除減少、社会保険料負担増のデメリットを比較して決める必要があるわけですね。
3.株式などの取引で損益通算や繰越控除をすることでの社会保険料の負担増にも要注意
税金と、医療・介護などの社会保険料とでは損益に対する考え方が異なります。
自営業者や年金受給者等の国民健康保険あるいは後期高齢者医療保険に加入している人は、確定申告をして損益通算したり繰越控除をすると所得が増えてしまい、翌年の健康保険料や介護保険料の負担が増えてしまう可能性があります。
確定申告をすることで、還付される税額がいくらなのか、所得が増えることで社会保険料がいくら増えるのか、しっかり見極めて、確定申告をするのか源泉徴収で課税関係を終わらせるのか判断することが大切ですね。
なお、国民健康保険料、介護保険料の算定の仕方は市区町村によって異なります。各自治体のHPで保険料の試算もできますし、税額に関しては税務署の無料相談コーナーも利用できます。いろいろなツールを使って判断材料にしてみてください。