【ARUHIアワード11月期優秀作品】『スパーキーガール』洗い熊Q

――太陽に照らされる彼女の瞳に映るもの。
 コバルトブルーの地球なんだ。
 瞳に収まる世界を見つめると、僕はなんて小さいと知らされる。
 愛という時空に彼女といれば、その優しさに甘えてしまう。
 僕は飛んでくる所を間違えた流れ星さ。
 さっさと消えてしまって良かったんだ。
 でも見つけてしまった彼女の瞳のもう一つの世界。
 本当に君は宇宙人。やっぱり凄いんだから。


 あの慶二さんが帰って暫く。
 気が付いたら店の前に何台ものトラックが停まって来た。
 トラックから降りてくる人の中には慶二さんに由香里も一緒に。
 ……おい、何時の間に一緒にいった!? 貴之が呼び止める隙もなく、店の中に次々と運び入れ作業を進める人達。
 そして瞬く間に店の中に柱が立ってしまった。
 いや正確には積み上げた。大きな石材を一つ一つ重ねて、石のトーテムポールで天井を支えたのだった。しかも三本も。
「よし、これで大丈夫だろ」と慶二さんが胸を張り自慢げに言うのだ。
「そだね、大丈夫だね」と由香里も胸を張った。
 いや、お前が自慢するな。一緒になって石材運びをやった彼女のパワフルさには脱帽した貴之。
 しかし長方形の石材は隙間なく積み上がっているが何処となく歪。何かあったら崩れてしまいそうな雰囲気。
「後で俺が補強しとくよ。石柱の周りを積木の様に木で囲えば見栄えもいいだろう。別にちゃんとした柱も立てておけば大丈夫だ」と虎太郎が言った。
「おっ流石ですねぇ、虎太郎さん。頼りになる~」と由香里がグーサインを出す。
 でも幾ら石材屋と言っても、良くこれだけの石があったもんだと貴之は石柱を周りながら見た。
 すると石材の面に何か文字が掘ってある。
 何だ? と文字の向きに合わせて貴之は首を傾げる。横向きになった漢字一文字“南”と掘ってあった。
 字体も何も明らか。“南無阿弥陀仏”の“南”だ!
「ななな、南って!?」と思わず貴之は指差しながら慶二さんに言う。
「ん? どうした」
「ここ、これって墓……」
「そっちが南向きって事じゃないか」
 いやそっちは東だ。貴之の指摘に慶二さんは素知らぬふり。
 まさか使われてた墓石じゃねぇだろうな!? 不吉に思いながらも今更に退かしてくれとは言えない貴之。
 そして気付けば店の中はすっかり様変わり。アットホームな雰囲気など何処かに飛んでしまい奇抜しかない。もう呆然とするかなかった。
 しかし由香里だけは小躍りしながら楽しそうにしている。
 その彼女の歓楽の空気に誘われた様に、ひょこひょこと店の中を覗き込んでくる人達が現れるのだ。
「どうしたの由香里ちゃん? お店、改装してるの?」
「あっ、こんちは。いえいえ修理中なの。実はね、虎太郎さんがね……」

 訪れるのは見覚えもあるが貴之が知らない人達ばかり。一体、彼女とはどこで知り合った?
 大抵はこの店なのだろうが。でも正直、こんなに客が来てたのかどうか。そう思えるくらい貴之の店は芳しくなかった。
 穴開けを切っ掛けに集まる人達。その中心に由香里がいてオーバーな仕草で事の経緯を説明しているのだ。

「へぇ~大変だね。……そうだ。オープンテラスにするならウッドデッキよくない? 実は家をそうしようとして材料は揃えたんだけど……作る気力失ってね~」
「そうなの? 使わないんならウチに下さいな」
「あ、俺んちも車庫の扉を変えようとしてね。跳ね上げ式の扉を使い回さない? 結構デカいやつ」
「わー、わー。貰う、貰う~。持って来ちゃって、来ちゃって」
 本当の持ち主抜きで集まった人達から材料を集め始める由香里。背後で戸惑う貴之だが、話の盛り上がりに圧倒されて口出し出来ない。
「こりゃ大変な改装になりそうだぁ」
 コーヒーを飲みながら虎太郎が微笑ましく言うが、アンタから止めてくれと貴之は睨むのだった。

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