地方の元気こそが、日本の元気の原動力です。そこで政府が地方の活性化を後押しするために行っているのが地方創生推進交付金。これは、地方自治体が主軸となって行う事業の活動資金を補助する制度です。さまざまな地方で観光を活性化させたり、産業の発展に取り組んだりするなど、地元を盛り上げる活動が行われています。なかには山口県宇部市のように、この助成金を使って住んでいる人を元気にすることを目的にした「ICT&SIBの活用により健康長寿化と扶助費の増加抑制を可能とする飛び地連携型大規模ヘルスケア事業」といったプロジェクトを行っているところもあります。今回は、このプロジェクトについて、宇部市/健康福祉部/健康増進課副課長の伊藤雅浩さんにお話を伺いました。
健康寿命を伸ばしてまちを元気に!
山口県宇部市が取り組んでいる「ICT&SIBの活用により健康長寿化と扶助費の増加抑制を可能とする飛び地連携型大規模ヘルスケア事業」は、民間と協働し、ICT(情報通信技術)を活用して住民の皆さんに運動習慣をつけてもらうもの。SIBとは、「Social Impact Bond」の略で、官民が連携して社会的な問題を解決する仕組みのこと。今回のプロジェクトでは、ICT化のための技術などについて民間事業者と連携しています。新時代における2つの手法を使って、現在の健康を長く維持し、健康寿命を伸ばすことで医療費などの扶助費を抑制することを目的としているのです。
なぜこのようなプロジェクトが進められているのかというと、伊藤さん曰く、「高度成長時代に進められた自動車依存のまちづくりによって住民は自動車に依存した生活を送っています。そのせいか、公共交通機関が発達している大都市に比べて、本市は生活習慣病の罹患率が高くなっているのです」とのこと。このまま高齢化が進めば、後期高齢者の割合が増加することは目に見えていますし、そうした状況に伴って介護認定者数の増加も想定されているそうです。しかも、宇部市では2015年度の時点ですでに国民健康保険被保険者一人当たりの医療費が全国平均の1.32倍! 心疾患や脳血管疾患などの原因となりやすい生活習慣病によるレセプトの合計件数も年々増加しているそう。その数も全国の1.3倍となっていて、医療費総額を押し上げる大きな要因となっているのです。確かにこれでは、扶助費がいくらあっても足りないという状況になってもおかしくありません。何よりせっかく長生きをするなら健康であるに越したことはありません。病気を未然に防ぐことは将来に向けても大切なテーマです。
とはいえ、これまで何もしてこなかったわけではなく、「ウオーキング関連教室」「生活習慣病予防教室での運動・栄養講座」「特定保健指導」「糖尿病性腎症重症化予防事業」といった生活習慣病の予防や重症化予防を実施していました。しかし、参加するのはすでに運動の習慣があったり、健康に関心を持っていたりする人ばかり。もっとも心配な健康に無関心な層の参加がなかったそうです。そこで、健康に無関心な層を掘り起こすことも含めて、このプロジェクトに取り組むことになったのです。
運動量をポイント化、景品と交換でモチベーションをアップ!
プロジェクトの期間は、2019年から2023年までの5年間。プロジェクトには、「はつらつ健幸ポイント」と「あなたにぴったりの個別運動プログラム」の2つのメニューが用意されています。
「はつらつ健幸ポイント」は、活動量計またはスマートフォンアプリなどの「ICT機器」を使って、「歩くこと」と「測ること」を中心に健康づくりにチャレンジするコースです。歩いた数をポイントに換算し、貯まったポイントに応じて景品と交換できるシステムです。また、「歩くこと」など運動するだけでなく、月に1回専用の体組成計で測定し、体脂肪や筋肉量の変化など体の中の変化もみていきます。ちょっとお得なポイントシステムを使って、楽しく健康づくりができます。市民または在勤者で20歳以上の方は誰でも参加申し込みが可能です。
「あなたにぴったりの個別運動プログラム」は、対象者に条件があります。その1つが現在運動をしていない65歳以上の人が対象の「運動で体力年齢若返りたい人コース」。
もう1つが「病気があっても運動したい人コース」で、すでに生活習慣病と診断され、治療を行なっている40歳以上の人が対象になります。どちらも個人の体力等に合わせ、フィットネスバイクなどの「有酸素運動」と「筋力トレーニング」を行って、介護予防と生活習慣病の重症化防止、改善を目指します。どちらのコースも「はつらつ健幸ポイント」と合わせて参加することになります。
ポイントを貯める方法として歩くほかにも健康診断の受診や体組成での測定、市内で実施する健康行事の参加なども、健康に良い行動はポイントの対象となって活動量計やスマホのアプリに記録され、参加内容に応じて加算されていきます。貯めたポイントは、最大5,000円相当のQUOカードに交換できるというのですから、健康になれるうえにちょっとお得で参加のモチベーションも上がりますね。
2020年度は1,800人の新規参加者を募集!
こうした取り組みの結果、プロジェクト開始初年度である2019年は1,200人の参加者募集に対し、1,127人(11月末現在)が参加。このうち、以前の制度でも参加していた方は588人だったため、残りの約50%の人は新しい参加者だったことがわかっています。ICT機器を利用して手軽に記録できることをアピールしたり、ちょっとしたごほうびを用意したりすることで健康無関心層を掘り起こすきっかけを掴みつつあるようです。
実際、市民の皆さんの反応を伊藤さんに伺うと、「ICT化するということで『高齢者を置き去りにした制度じゃないか』という声があったんですが、いざ始めてみると『簡単になったね』と言っていただいたり、記録が簡単だし、簡単に見ることもできるので、『続けるモチベーションになる』と言っていただいたりしています」と、うれしい声が届いているそうです。また、ポイントをICT化することで、誰もが簡単に扱うことができるようになり、体を動かす楽しさと相まって、それが口コミで広がるといった、予想外の効果も生まれているそう。2020年度は、さらに人数を増やして1800人の新規参加者を募集するそうです。
このプロジェクトは、宇部市だけではなく、同じような課題を持つ鹿児島県指宿市、岩手県遠野市、京都府八幡市、埼玉県美里町とも連携して推進中です。ICT(情報通信技術)を活用することで離れた地域でも1つの自治体とみなすことができるため、利用料金を抑えることができることがその理由だそうです。どの地方都市にとっても住民の健康は大切なもの。なぜなら、健康な住民こそがまちを支えてくれるからです。若いうちから健康を気遣った暮らしができるまちに住めば、人生を思う存分楽しめるかもしれませんね。
(最終更新日:2020.02.27)