2020年から実施予定の「証券取引の手数料無料化」はどう心得る?

最近、証券業界で手数料を無料化する動きが本格的になってきているようです。ネット証券と呼ばれるインターネット専業の証券会社(SBI証券、auカブコム証券、マネックス証券、松井証券、楽天証券など)の発表を見てみると、投資信託の販売手数料や、信用取引の売買委託手数料を無料にし、現物株の売買委託手数料も、早いところでは2020年から、遅いところでも2022年までには無料にする方向のようです。この無料化が業界に与える影響、および利用者が心得ておきたいポイントについて解説します。

金融商品における手数料の存在

ちなみに、念のため用語解説をしておきましょう。

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そして、これら金融商品の取引を行う際には、手数料がかかるのが通常です。

投資信託のなかでも大半を占める株式投資信託(株式を組み入れることができる投資信託)の場合は、買うときに購入金額の2~3%程度の販売手数料がかかり、保有している間は年率0.2~2%程度の運用管理費用(信託報酬)が差し引かれるのが一般的です。

信用取引や現物株の場合は、売買の際に、売買委託手数料がかかります。この株式の売買委託手数料については、昔は証券取引所が手数料を決めていましたので、どこの証券会社を通じて売買しても手数料は一律でしたが、1999年10月に完全自由化となり、現在では、証券会社ごとに手数料が異なるだけでなく、取引のしかた(証券会社の窓口で取引をするか、ネットで取引をするかなど)によっても手数料が異なるようになりました。

そもそも日本の場合、ネット証券が登場してきた背景に、この株式売買委託手数料の自由化があります。それから約20年、手数料の引き下げ競争が激化し、ついには無料化するような流れになってきたわけです。

「手数料無料化」がもたらすもの

これまでかかっていた手数料が無料になるというのは、私たち個人投資家にとっては歓迎すべき話でしょう。でも、「タダより高いものはない」という言葉もあります。手数料を無料にしてしまったら、証券会社はどこで収益を稼ぐのか、という疑問もわいてきます。

一足先に手数料無料化が進んでいるアメリカの例を見ると、証券会社の収益構造が売買手数料依存から脱却できていて、金利収入やその他の収入で収益を確保できているようです。日本でも同じような流れになるとすると、売買手数料を無料化しつつ、その他の部分で収益を確保しようとするはずです。

投資信託の場合は、運用管理費用(信託報酬)で収益を得られます。最近では運用管理費用(信託報酬)の引き下げ競争も始まっていますので、先行きとしてはこの部分の収益も縮小傾向にあります。

信用取引の場合は、証券会社がお金を貸したり、株式を貸したりするので、金利や貸株料が収益となります。実際に、auカブコム証券は信用取引の金利を12月から引き上げました。松井証券も12月から新たな貸株サービスを始めたようです。同様のことが他のネット証券などでも行われる可能性は高いでしょう。

現物株の場合は、売買手数料以外のところで収益を確保するのは困難なので、他のサービスでの収益確保の必要性が高まるはずです。他のサービスとしては、すでに国内大手証券会社で進んでいる資産管理型のビジネスモデルが考えられます。

富裕層向けなどに行われている資産管理アドバイス(単なる資産運用だけでなく、税金対策、相続対策も含めた総合的なアドバイス)に対する成功報酬制や定額制の手数料や、預かり資産残高に対する手数料などを収益としていくビジネスモデルです。

無料なら”どこか”が有料? 見抜いて判断を

したがって、今後、ネット証券はさらに淘汰が進む可能性があると思われます。とはいえ、私たち利用者は、証券会社が統合したり、破綻したりしても、直接的な影響は受けません。注意すべき点をあえて挙げるなら、新しい金融商品やサービスを利用する際には、どのような手数料がどのようなタイミングでかかってくるのかを、事前にきちんと調べるべきでしょう。

証券会社は慈善事業で業務を行っているわけではありません。手数料が無料なら、何かが有料になっているはずです。慎重に見抜く目を養っておきましょう。

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