学校に行かず、好きな本を読んで勝手気ままに過ごすことにしていた。ごくたまに学校に行ってみるのだが、帰りたい一心で体調不良を理由にお昼までで早退し、同級生に羨ましがられた。どこかに遊びに行くことはなく、市の図書館に通い、貸出可能数上限の10冊の本を借りては、家に持ち帰る。実家は古い一軒家で、縁側を網戸にして風に当たりながら、本を読み漁り、母が作るご飯を楽しみにして過ごしていた。飼っていた犬がひなたぼっこをするのを眺めて、気持ちよさそうだなとボーっとする。ただ、家にいるだけでは申し訳ないと思い、時々洗濯や食器洗いなどの家事は手伝うようにしていた。学校に行かなくとも、家で過ごせばいいのではと、そんな考えもめばえるようになった。外に出かけるよりも家で過ごすことが好きな私にとって、毎日がとても幸せに感じられたからだ。
ある日のお昼ご飯を食べた後だっただろうか、父親から実家の応接間に来るよう、母伝えで呼び出された。父は母に、
「二人にしてくれ。」
との一言を告げ、緊張した雰囲気で、とても不安だった。
「えっ。なんで。」
と心のなかで呟いていた。
ときに厳しく怒ることがある父に怒られるのだろうかと思いながら、そろそろと障子を開ける。するりと鼻にはタバコのにおいが入ってきたと思うと、実家を訪ねて来られた方に座っていただく鮮やかなオリーブ色の革張りソファが目に入る。私が生まれる前に置かれるようになったソファは、両親がやっとの思いで見つけた、お気に入りのものだ。そのソファに遠慮がちに浅めに座り、低めの机を挟んで向かいに座る父は吸っていたタバコを灰皿にぐいっと押し付けた。ぐいっと大きなからだを前のめりに、少し間をおいて、父が口を開き始めた。
「学校に最近行けなくなっているようだけど、どうした。いじめられているのか。」
いきなりの質問に、口からでてきた言葉をそのまま伝えた。
「ううん。いじめられてないけど、行きたくないだけ。」
「うーん。そうか。お父さんが家にいることが嫌か、恥ずかしいのか。」