厚生労働省は「社会保障審議会年金部会」という会議を行い、2019年8月27日に公的年金の「財政検証」を公開しました。「財政検証」とは、将来の年金の給付状況を、5年に1度検証するものです。今回は、少子高齢化を背景に、年金制度の現状が厳しいという実像が明らかになりました。
所得代替率とは
「財政検証」を理解するために必要なのが「所得代替率」という考え方です。所得代替率は、年金の給付水準を現役で働いている人の平均手取り収入額で割ったものをパーセンテージで表したものです。
例えば、夫婦2人のモデル年金額が22万円、現役男性の平均手取り収入額が35万7,000円だとしたら
<所得代替率>22万円÷35万7,000円×100=61.6%
となります。
現在の年金制度は、現役世代の収入と同じ金額を給付することを目的にしていません。老後の基本を支えることを目的としています。現在は、所得代替率を50%以上に確保するために、政府は公的年金制度を持続可能なものと考えています。
「マクロ経済スライド」が所得代替率に影響を及ぼす
「マクロ経済スライド」とは、現役人口の減少や平均余命の伸びに合わせ、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。年金制度は基本的に賃金水準や物価水準に応じて変動する仕組みですが、マクロ経済スライドはそれらの水準が伸びたとき、その伸びほどは年金額を引き上げないようにするものです。
下記図のケース1~3は、経済成長と労働参加が進むケースです。マクロ経済スライド終了時に、所得代替率は50%以上を維持することができ、マクロ経済スライド調整期間において新規裁定時の年金額がモデル年金ベースでは物価上昇分を割り引いても増加するとされています。
ケース4、5は経済成長と労働参加が一定程度進むケースです。
ケース6は経済成長と労働参加が進まないケースです。2040年代半ばに所得代替率50%に到達するとしています。マクロ経済スライド調整期間において新規裁定時の年金額がモデル年金ベースでは物価上昇分を割り引いても概ね横ばいないし微減するとされています。
今回の財政検証は、過去の財政検証に比べて、経済成長の前提などが控えめな数字になっています。経済成長が進まない場合は、マクロ経済スライドを機械的に継続すれば、将来は所得代替率が50%を切ると想定されます。
年金水準を保つには
今回の「財政検証」では、少子高齢化という課題を抱える年金制度の現状と、厳しい将来像が明らかとなる形になりました。
経済成長が進むケースであれば、所得代替率50%は維持できます。経済成長が進まない場合、所得代替率50%を維持できなくなったときは、年金の水準を保つための検討を行い、マクロ経済スライドを止めるなど所要の措置を講じます。
もし、経済成長と労働参加が進まないケース6になったとき、機械的にマクロ経済スライド調整をすると、2052年度に国民年金の積立金はなくなり、完全賦課方式に移行することになります。
日本の経済は日々変化していますので、財政検証の仕組みと意味を理解し、絶えずチェックすることが大切です。