2020年度より、省エネルギー性、耐震性など質の高い住宅を取得する場合に、借入金利を一定期間引き下げる【フラット35】Sの技術基準について、環境に関する基準を厳格化することが、政府で検討されています。同時に中古住宅向けローンの省エネ基準は緩和される方向です。
低金利が続く中、全期間固定金利の【フラット35】は35年間など長期のローンを組む人にとっては魅力的です。今回の改正でどのような物件がより有利なローンを使いやすくなっていくのか、【フラット35】と【フラット35】Sの技術基準の比較をしながら解説していきたいと思います。
【フラット35】と【フラット35】Sとは
【フラット35】は、住宅金融支援機構が定める技術基準を満たした住宅に対し、民間の銀行と提携して最長35年間全期間固定金利の融資が受けられる住宅ローンです。申し込みは提携している金融機関で行いますが、金融機関により金利や手数料等が異なるのも特徴です。
【フラット35】Sは前途のとおり、【フラット35】を申し込んだ人の中でも、特に省エネルギー性や耐震性などにすぐれた住宅を購入するときに、借り入れ金利を一定期間引き下げる制度です。
2020年3月31日までの申し込み分については、技術基準の違いによる「金利Aプラン」は当初10年間【フラット35】の金利から0.25%引き下げ、「金利Bプラン」は当初5年間の0.25%引き下げとなっています。新築住宅の建設・購入や中古住宅の購入で利用できますが、【フラット35】借り換え融資や【フラット35】リノベとは併用できません。
【フラット35】Sを利用するには、
1.省エネルギー性
2.耐震性
3.バリアフリー性
4.耐久性・可変性
の4分野の6つの住宅性能の基準のうち、いずれか1つ以上を満たすことが必要です。
6つの基準の内容は以下の通りです。いずれも(1)から(6)の1つ以上の基準を満たせば当初10年間、または5年間、【フラット35】の借り入れ金利から0.25%引き下げられます。
【フラット35】S プランと技術基準(新築・中古共通)
省エネルギー性のある家とは夏を涼しく、冬は暖かく過ごせ、冷暖房費を節約できたり、耐震性については大地震から家族を守り、火災保険料も割引となる家です。
バリアフリー性については高齢になっても暮らし続けられる家、耐久性・可変性については家族のライフスタイルに合わせて間取りが変更でき、長生きに備える耐久性のある家です。
ローンの金利引き下げはもちろんですが、購入者にとっても【フラット35】Sの技術基準をクリアした住宅を購入することは、長く安心、安全、快適に暮らせる住宅の購入につながるメリットがあります。
2020年度から省エネ基準の厳格化を検討
現在6つの技術基準のうちいずれか1つ以上を満たせば金利引き下げが受けられますが、2020年度から、金利Bプランについては省エネルギーの基準を厳しくする方向で政府の検討が始まっています。具体的には6つの基準のうち「断熱等性能等級4」と「一次エネルギー消費量等級4以上」の両方の基準を満たさないと金利優遇を受けられなくなります。
省エネ基準が厳格化される背景には、世界的な温室効果ガス排出の増大による地球温暖化から日本でも自然災害が増加し、被害も激しくなっていることなどがあげられます。資源エネルギー庁の計画では、2030年度までに温室効果ガスを2013年度と比べて26%削減、2050年までに80%削減を目指すとの具体的な方針も打ち出されていて、住宅についても省エネ基準を厳格化していきたい方向です。
本来は、2020年までの省エネ基準の適合義務化を検討していましたが、住宅の技術やコスト面からむずかしいことも多く、義務化には至っていません。
中古住宅の流通促進
【フラット35】Sの技術基準厳格化の検討とは逆に、中古住宅向けの【フラット35】リノベでは、省エネ基準が緩和される方向です。
【フラット35】リノベは中古住宅を購入して基準を満たすよう性能向上のリフォームをした場合、または性能向上済みの中古住宅を購入すると【フラット35】の借り入れ金利から当初10年間、または5年間0.5%の金利引き下げを受けられる制度です。2020年度から当初5年間金利優遇を受けられる「金利Bプラン」について省エネ基準を緩和する方向です。
これは、少子高齢化で年々増え続ける空き家問題解消のため、中古住宅の流通を促進する目的があります。質の良い住宅を適正な維持管理をすることで価値が上がる、もしくは維持できれば、20年後、30年後でも自宅を売却して住み替えが可能になり、年齢や家族構成に合わせた住み替えもしやすくなります。家が朽ち果てるまで住み続けて、その後は空き家、ということがないように、中古住宅でも性能が良ければ有利な住宅ローンが組めることで、買い手もつきやすくなるでしょう。
まとめ
今回の【フラット35】Sの技術基準変更のポイントは、地球温室効果ガス削減目標に近づくための省エネ基準の厳格化です。削減目標に向かって、今後ますます基準は厳格化の方向に向かうでしょう。今後も基準を満たす住宅を購入、建築することでより低金利のローンを借りられる可能性が広がりそうです。
また、中古住宅の省エネ基準緩和は、空き家対策として、性能が高い中古住宅の流通性向上が目的です。ライフスタイルが多様化している現在、将来転職をしたとき、ふるさとに帰るとき、高齢になって老人ホームに住み替えたいとき、中古住宅として流通する家であれば負の資産とならず、売却や賃貸をすることで自宅をお金に換えることができます。また、次の世代に引き継ぐときに、空き家にはなりません。
政府の数値目標や施策はいざ知らず、自分の人生にとっても、性能の高い家を購入し適正に維持管理していくことが、将来自宅を資産として活用していく選択肢につながる時代になっていくでしょう。
参考サイト
SankeiBiz
住宅金融支援機構 【フラット35】
第5次エネルギー基本計画