用途地域とは、建築できる建物の種類、用途などを定めたルールのことで、大きくは、住居系、商業系、工業系の3つに分類、さらに細かく13種類に分かれています。(下の図表1を参考)
ですから、マンション選びを行うときには、その場所がどの用途地域に指定されているのかをみれば、どんな環境なのかを概ね推測することができます。その用途地域の見極めのポイントを整理しておきましょう。
住居系の用途地域が住みやすいとは限らない
図表1 用途地域に関する形態制限の概要
用途地域は、大きく住居系、商業系、工業系に分かれていますから、誰でも住居系が一番住みやすいのではないかと考えるはずです。
住環境だけを考えれば、たしかにそうでしょう。
一番規制が厳しい第一種住居専用地域(一低)は、小規模なお店や事務所を兼ねた住宅、小中学校などは建てられますが、それ以外は原則禁止。
しかも、敷地面積に対して建物を建てられる面積の割合は最大でも60%で、高さは10mまたは12mまでに規制されています。その分、庭が広く、緑の多い住宅地が形成され、高い建物がないので、開放的で眺望が開けます。
一方でマンションは原則3階か4階建て以下に限られ、効率が悪いので価格が高くなります。しかも、一低のあるエリアは、大都市部では最寄り駅からの距離が遠くなるのがふつう。さらに、近くにコンビニもない場所であることが多く、いくら環境が良くても生活利便や交通アクセスなどの面では物足りないエリアになります。
規制が緩いエリアのほうが便利な住まいになる
住居系の用途地域としては、ほかに第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域から準住居地域まであって、段階的に規制が緩やかになります。緑などの住環境はやや劣るようになるものの、その分、各種のお店や生活利便施設などが揃い、生活しやすくなります。
たとえば、
準住居地域
主に幹線道路沿いの場所に設定されていて、ロードサイド型の各種の店舗が揃い、何かと便利な場所になっていることが多いようです。ただし、その分、幹線道路沿いが多いので、騒音が気になるかもしれませんし、小さな子どもがいると安全面でもやや不安かもしれません。
この用途地域、2018年までは12分類だったのですが、都市部での農業を守るために田園住居地域が創設されました。東京23区などでは田園住居地域の指定は少ないのですが、農地以外は低層住宅中心なので、住環境には恵まれています。
商業系、工業系の用途地域にも住みやすい場所が
一戸建てやマンションなどの住宅を建てられるのは、以上の住居系のエリアだけではありません。図表1の工業専用地域以外は、どの用途地域に指定されていても、住宅を建てることができます。たとえば、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域の4つの用途地域がそうです。
このうち、
商業地域
駅前などの繁華街が指定されることが多く、便利な場所ですが、地価が高く、住居の一戸建ては少なく、高層マンション、超高層マンションが中心になります。最近は、駅前を大規模に再開発して超高層マンションが建てられることが多いのですが、エリアのランドマークとして注目度が高く、その分、価格もかなり高くなってしまいます。パワーカップルなどには向いているかもしれませんが、子育て環境を重視する世帯にはあまり向かないでしょう。
近隣商業地域は、商業地域と住居系地域の中間に位置することが多く、利便性が高く、中高層マンションが建てられることが多いようです。
準工業地域や工業地域にも住宅を建てることができる
準工業地域、工業地域といえば工業地帯のなかにあって、住宅は建てられないと思っている人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。先にも触れたように、住宅を建てられないのは工業専用地域だけで、準工業地域、工業地域でも一戸建てやマンションを建てることができます。
特にマンションが多いのが準工業地域です。もともと町工場と住宅などが混在するエリアがこの準工業地域に指定されていることが多いのですが、製造業の衰退や海外移転などが相次ぎ、その跡地に大小のマンションが建てられるようになりました。国土のうち約20万haが、この準工業地域に指定され、住居系の各用途地域と遜色ない広さとなっています。
場所によっては、古くからの人情味あふれる商店街が残っていたり、大都市では失われた地域の絆などもシッカリと維持されていたりします。閑静な住宅地に住みたいという人には向きませんが、便利で賑やかな環境がいいという人にはうってつけではないでしょうか。
準工業地域では危険性の高い工場の立地は禁止されている
あくまでも準工業地域ですから、工場ばかりということではなく、マンションなどの住宅のほか、さまざまな商店、サービス業なども充実しています。
もちろん、準工業地域ですから、隣に工場などが建つ可能性がないとはいえませんが、それでも、危険性の高い製品を扱う工場などの立地は禁止されています。たとえば、以下のような工場がそうです。
・火薬類取締法の火薬類を製造する工場
・タンパク質の加水分解や薬品等を製造する工場
・アスファルト製造の工場
・動物の排泄物や臓器を原料とする医薬品製造の工場
湾岸エリアの埋立地の多くも準工業地域に指定されている
準工業地域でひときわ注目されているのは、湾岸エリアの埋立地の多くが準工業地域に指定されているという点です。東京でいえば、江東区の有明、青海、豊洲、東雲、港区の芝浦、港南、海岸、品川区の八潮などの多くがそうです。
これらのエリアでは、広い敷地を活かして、大規模な超高層マンション、複合施設などの開発が行われています。もともと埋立地ですから、生活利便施設が不足し、緑も少なかったのですが、それらの点を補うような開発が相次いでいるのです。
たとえば、東京の有明エリアでは、3棟の超高層マンションと合わせて、延床面積約4万平方メートル、200店が入る大型商業施設を設置し、国内最大規模の8,000人収容のホールなどの文化施設まで併設する複合開発が行われています。無味乾燥なイメージの強い埋立地を、より快適で住みやすい街にしていこうとする取り組みが各地で進んでいるのです。
こうしたさまざまな特徴を持った準工業地域。マイホーム、なかでもマンション選びでは穴場的な存在といってもいいかもしれません。