住宅の建設・売買やリフォームなどを巡る電話相談件数が増えています。その多くは住宅そのもののトラブルに関する相談で、トラブルが発生してからの相談が大半を占めているそうです。でも、トラブルが発生してからの解決は簡単ではありません。事前に相談することがトラブルに巻き込まれない賢い行動です。
誰でも無料で建築家などの専門家に相談できる
公益財団法人の住宅リフォーム・紛争処理支援センターでは、建築家など住宅の専門家が相談に対応する「住まいるダイヤル」を実施しています。無料で、誰でも相談できるので、住宅の建設、購入やリフォームなどに悩んだときのために、ぜひとも知っておいていただきたい窓口です。
その住宅リフォーム・紛争処理支援センターでは、同センターで行っている相談業務について集計・分析を行い、毎年『住宅相談統計年報』としてまとめています。その最新版が公表されました。
18年度の相談件数は前年度比で14.6%の増加
2018年度に住宅リフォーム・紛争処理支援センターが受けた電話相談件数は、図表1にあるように、計3万2253件でした。2017年度は2万8142件だったので、前年度比では14.6%の増加です。無料で、建築家などの専門家に相談できる機関はなかなかありませんから、多くの人がこの「住まいるダイヤル」を利用しているようです。
相談の内容を新築等相談とリフォーム相談に分けると新築等相談が2万件強で、リフォームが1万件強と、新築等相談のほうが多くなっています。
また、1件の相談が1回で終わるとは限らず、繰り返しの相談もあるため、延べの応答回数は4万1639件に及ぶそうです。
図表1 住まいるダイヤルの相談件数の推移(単位:件)
新築等相談の事前相談は16.3%にとどまっている
このうち、新築等相談に関して、その相談の内容をみると、図表2にあるように、「住宅のトラブルに関する相談」が65.6%を占めています。それに対して「知見相談」は16.3%で、「その他の相談」が18.1%という結果でした。
「知見相談」というのは、知識や見識などを得るための相談ということで、住宅の建設や取得などに当たってトラブルが発生しないように、事前に相談して、疑問や不安などを解消しておくための相談ということです。いわば、転ばぬ先の杖ということでしょう。
しかし、実態をみると、その知見相談を行っている人は少数派で、多くの人は実際にトラブルが発生してしまってから、相談を行っているわけです。
図表2 新築等相談における相談内容(単位:%)
事前に相談すればトラブルに巻き込まれない!?
この知見相談、実はたいへん重要なのです。ある自治体の不動産に関する相談窓口の担当者はこういいます。」
「実際に、トラブルに巻き込まれて相談に来る人のほとんどは事前相談に来ていません。でも、事前相談に来られた人がトラブルに巻き込まれて相談にやってくるケースはほとんどありません。事前相談すれば、それだけトラブルに巻き込まれにくくなるということではないでしょうか」
いったんトラブルに巻き込まれと、解決は簡単ではありません。相手は不動産会社、住宅メーカーなどの百戦錬磨の担当者であるのに対して、施主や買主である一般消費者は、住宅や建築に関する知識をさほど持っていないのがふつうです。知識や経験の非対称性は限りなく大きく、納得の行く解決策に至るのは簡単ではないわけです。
電話相談のほとんどは持家の一戸建てが占める
この電話相談の対象となっている住宅の形態をみると、新築等相談では79.0%、リフォーム相談では78.9%を一戸建てが占めています。マンションなどの共同住宅に関しては、2割程度にとどまっています。
住宅の利用関係をみると、新築等相談では持家が89.5%で、賃貸住宅が10.5%、リフォーム相談では持家が95.1%で、賃貸住宅は4.9%に過ぎません。
つまり、電話相談の多くは、一戸建ての持家に関する相談が占めていることになります。一戸建ての建設、購入を考えている人は、特にこの点を理解しておく必要がありますし、知見相談の重要性を知っておいていただきたいところです。
一戸建ての不具合としては「ひび割れ」がトップ
その一戸建てに関して、不具合が発生している場合、どんな不具合事象が多いのかは、図表3にある通りです。
一番多かったのは「ひび割れ」で、21.0%に達しています。そのひび割れが発生する部位としては、外壁、基礎などが挙がっています。注文住宅であれば、工事中の現地見学のときなどに注意しておく必要がありますし、注文住宅だけではなく、建売住宅でも引渡し前の検査時に入念にチェックしておきたいポイントです。
そのほか、外壁や屋根などに多い「雨漏り」、設備機器や外構などの「性能不足」、そして屋根や外壁などの「はがれ」などが続いているので、十分にチェックしておきましょう。
図表3 トラブル相談における一戸建ての不具合事象(複数回答=上位10位)
ほかにも都道府県庁などいろんな相談窓口がある
この住宅を巡る相談窓口、「住まいるダイヤル」だけではありません。
たとえば、個別の不動産会社に関する相談であれば、都道府県の不動産業担当課に相談窓口があります。東京都を例にとれば、本庁の不動産業課に、不動産取引(売買・賃貸)のうち、宅地建物取引業法の規制対象となる内容についての相談を受ける窓口が設けられています。
また、事前の予約が必要となりますが、不動産取引の民事上の法律相談に関して、弁護士相談も行っています。1件当たり20分以内に限られますが、弁護士に無料相談できる貴重な機会です。
各地の消費生活センターでも相談できる
さらに、都道府県などの消費生活センター、国民生活センターなどでも相談業務を行っています。国民生活センターの集計によると、2018年度の「安全・品質」に関する相談件数のトップには、「賃貸アパート・マンション」が上がり、11位に「新築工事」、15位に「戸建住宅」、16位に「塗装工事」などが上がっています。安心できる住宅に関する相談がたいへん多くなっているのです。
また、業界団体などでも相談窓口を設けているケースがあるので、取引しようとする企業がどの団体に属しているのかを確認しておくことも重要になります。
「住まいるダイヤル」のほか、こうした相談機関を通して事前相談を行い、トラブルに巻き込まれないようにするのが一番ですが、万一、トラブルが発生したときには一刻も早く相談して、早期に解決できるようにしたいものです。
(最終更新日:2021.03.19)