アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア (SSFF & ASIA)が展開している、短編小説公募プロジェクト「BOOK SHORTS (ブックショート)」とARUHIがコラボレーションし、3つのテーマで短編小説を募集する「ARUHIアワード」。応募いただいた作品の中から選ばれた10の優秀作品をそれぞれ全文公開します。
子供部屋の一角に、いつの間にかそれはあった。
いくつものダンボールを切って張って築かれた、城塞の如き物体。
大人一人が入れそうなくらいのそれを発見した時は正直唖然とし、何なのだこれは?といくつもの疑問符が頭の中を飛び交った。
しかしご丁寧にも入り口らしきところにはマジックでデカデカと『秘密基地』と明記されていたので、謎が明らかになるのは早かった。
人目に晒されている『秘密基地』。これはもはや秘密でも何でもないのでは?という無粋なツッコミは置いておき、私は子供に尋ねてみた。
「これは何?」と。
当然ながら返ってきた答えは「秘密!」であったわけだが……こんな真剣な顔は初めて見たなぁ。とか、ならばもっとわかりづらいところに作って欲しかったなぁ。とか、色々と思うところはありつつも、私は「秘密なら仕方がない」と中を覗くのは諦めた。
その日は。
翌日、夫の運転する車に乗って幼稚園に行く子供を見送ると、私は早速『秘密基地』の中に顔を突っ込んだ。
そこにあったのは、宝の山だった。
小さな車の玩具。
綺麗なおはじき。
教訓めいた絵本。
抽象的な絵が描かれた画用紙。
散らばるすり減ったクレヨン。
様々な形の紙ヒコーキ。やたらめったに折られた折り紙。
虫の死骸。
からからに乾いたどんぐり。落ち葉。
どれもこれも秘密にするようなものではないと思うが、それは大人になった私から見てというだけで、子供にしてみればこれは全て挑戦と大冒険の果てに得たお宝に違いない。
きっと、これは人間の本能で。
心の奥底にあるロマンが教えたのだ。
お宝は隠すものである。という事を。
だからこその『秘密基地』。
我が子供ながら大したやつだ。と、その日一日私は笑みを隠せなかった。
帰宅してからずっと私の様子を不思議がる子供にはこう言っておいた。
「秘密」と。
子供は首を傾げた。
私はその様子がおかしくてますます笑みを深めたのだった。
……などと、いい話っぽくしてみたものの……問題は、虫の死骸を家に持ち込むのはやめて!といつ切り出すかだ。
毎日楽しそうに遊んでいる子供を見ていると、中々言い出せず、今日もまたあっという間に一日が終わってしまった。
やれやれ。
一体どうしたものか。
これだから子育ては大変だ。
私は外で何らかの物体を拾ってきたであろう(巧妙に隠しているつもりだろうがズボンのポケットが妙に膨らんでいるせいで丸分かりである)子供を横目に見つつ、緩みそうになる口元を引き締めて、頭を抱えたのだった。
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