【第4回】共働き&子育て夫婦の住まい購入は「職住近接」「育住近接」がキーワード

分譲住宅の取材・記事執筆を約20年行い、住まいアドバイザーとして活動されている井上真樹さん。その取材経験を基に「後悔しない住まい選び」をテーマに、これから住宅購入を考える方に向けて経験談からのアドバイスをしていただきます。

お子さんの誕生を機に、マイホーム購入を考え始めるご夫婦は多いと思います。「これまで住んでいた家が手狭になるので、広くて、部屋数も増やしたい」「子育て・教育環境を整えたい」などの理由と共に、昨今は、「職住近接」や「共働きしやすさ」を条件として挙げる方も増えており、子育てと共働きの両立が住まい選びの大きなテーマになっているようです。今回は、子育て層、なかでも共働き層を中心に、住まい購入の時期や立地の見極め方を整理してみたいと思います。

ベストタイミングはいつ?

2018年首都圏新築マンション契約者動向調査(株式会社リクルート住まいカンパニー)」を見ると、2018年に首都圏で新築分譲マンションを契約した「子供あり世帯」のうち、約76%が第一子小学校入学前に住まいを購入していることがわかります。実際、小学校に入ると、子どもにも“友だち”というコミュニティが生まれるため、転校を伴う転居はしにくくなります。校区に縛られることなく、より多くの選択肢から住まいを選ぶことを考えると、「誕生から入学まで」は望ましい時期だと思います。今回は、この期間をさらに細分化して、いつがよいかについて考えてみたいと思います。

子育てで最も大変と言われる保育園期は、通勤や買い物、保育園の送り迎えにかかる時間をできる限り圧縮して、子どもとの時間を確保したいもの。それをかなえるのは、賃貸?分譲?

最も大変な保育園期、「職住近接」「育住近接」がキーワード

共働きするご夫婦にとって、子どもの幼少期は日々時間との戦い。子どもの急な発熱などで、仕事中に保育園から急な呼び出しがかかることも少なくありません。親子の愛情をしっかりと育みたい時期にもかかわらず、時間に追われるストレスを抱えながら子育てするのは、親にとっても子どもにとっても残念なことです。

共働きと子育てを両立する立地のキーワードは「職住近接」「育住近接」「商住近接」です。「自宅⇔保育園⇔職場」と「自宅⇔スーパーなどの買い物施設」にかかる時間を圧縮することが、時間に追われるストレスを軽減し、子育てを楽しむ心のゆとりを生みます。特に、最近は、通勤にかかる時間を短縮しても、駅と反対方向の保育園に送迎するのでは、かえって通勤の往復時間がかかってしまうとの理由から、「職住近接」以上に「育住近接」に注目するご家族が増えつつあります。

自宅から駅への近さより、保育園への近さに注目する「育住近接」が、最近の共働き&子育て層の住まい探しのキーワードに

『保育園期約6年』ここに照準を合わせて購入するメリット・デメリット

上記の条件を満たすために、育児休暇期間に住まいを購入するという選択肢があります。保育園の状況を調べて、その保育園に近く、保育園経由の通勤が便利で、買い物施設も近くにある物件と出合えれば、ゆとりをもって保育園期を過ごすことができます。また、これまで家賃として出ていくばかりだったお金を、マイホームという資産形成に振り替えられることは大きなメリットだと思います。

一方、生涯にわたって住む住宅を購入するのに、保育園期約6年だけに照準を合わせていいのか考える必要はあります。また、職場が都心にある場合、通勤時間を短縮すればするほど、一般的に価格は高額になりがちですから、広さを諦める必要が出てくるかもしれません。また、多くの新築分譲マンションでは竣工の数年前から販売が開始されるので、保育園入園までに引っ越しできる物件に限定してしまうと、選択肢が限られてしまいます。収入に関しても、育休や時短勤務により不安定な時期です。

そしてなにより、我が子にとって、親子にとって、何が望ましい「子育て・教育環境」であるかは、やはり実際に子育てしながら少しずつ明確になっていくことでもあります。それらを考え合わせると、保育園期は、広さは少し我慢しても、あくまで機動性重視で、保育園に近く、通勤や買い物が時短できる賃貸に住み、小学校入学前を目指してじっくり住まい探しする選択の方を私はおすすめしたいと思います。

我が子にとって、どんな「子育て・教育環境」が望ましいのか、その答えは実際の子育てを通して見えて来るものでもあります

「子育て・教育環境」が子どもに与える影響

子育て・教育環境を考える上で、「孟母三遷」は、今に通ずる教訓だと思います。「孟子が幼い頃、墓地の近くに住んでいたところ、お葬式の真似ばかりするので、母親は教育環境として好ましくないと思い、市場の近くに引っ越した。ところが、今度は商売人の真似をするようになる。これも好ましくないと考え、学校の近くに引っ越したところ、学生が行う祭礼や礼儀作法を真似て遊ぶようになったため、そこを住むべき場所にした」という中国に伝わる故事に由来した言葉ですが、子育てを終えた方に取材すると、この言葉を想起する事例によく出合います。

例えば、スポーツで活躍する息子さんについて、ご両親が「起伏のある大きな公園で、毎日駆け廻っていたことが、今の運動能力が養われたと思う」と話してくれました。ある時は、「娘が小学校4年生の頃、同じマンションに住む同級生の多くが塾に通い始めたので、娘も塾に通いたいと言い出し、結果、私立中学を受験することになりました」という話もありました。

子どもは、周囲の環境に大いに影響を受けながら育ちます。幼い頃に与えられる環境や機会が才能を開花させたり、進路を決めたりすることもあるわけです。裏を返せば、そういった環境や機会を与えさえすれば、それらが自然に子どもを育ててくれるということでもあります。だからこそ、住まいを選ぶ時は、子どもにどんな風に育ってほしいか、あるいは、子どもの個性を見ながら、どんな環境がその子どもの好奇心や感性を育てるものなのかなどについて考えてみてほしいと思います。

「お友達が塾に行っているから、私も通いたい!」。親が躍起にならなくても、学びの機会を子ども自身が見つけてくることもあるのです

自分たちの幼少期、何が楽しかったかを思い出してみる

「町の人が総出でお祭りを楽しむような町で育ったので、そこで生まれる世代を超えた人のつながりが感じられるような町で子育てしたい」「虫取りをしたり、川遊びをしたり、いつも自然の中で遊んでいた。子どもたちにもそういう環境が与えたい」など、ご自身の子どもの頃を振り返って、楽しかった経験や今も自分の糧になっている体験を子どもにも与えたいと考える方も多いようです。ご自身の「心の原風景」に立ち返ってみることは、子どもをどんな環境で育てたいかを考える糸口になるでしょう。

安心して子育てできる立地・環境を見極めるポイント

子育てする街として最も重視したいのは、安心して暮らせるか否かです。ここでは、街を見る時にチェックしておきたいポイントを紹介します。

ハザードマップ
家族の命を託すものであり、大切な資産でもあるマイホーム。子育て層に限らず、住宅購入の際に必ずチェックしておきたいのが、ハザードマップです。国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」に入ると、洪水・土砂災害・津波など災害リスク情報、道路防災情報、土地の特徴・成り立ちなどが、地図や写真に重ねて表示される「重ねるハザードマップ」があります。また、同サイトの「わがまちハザードマップ」からは、各市町村が作成したハザードマップへリンクすることもできます。地震については、防災科学技術研究所は運営するポータルサイト「J-SHIS 地震ハザードステーション」が参考になると思います。

治安
警視庁が公開している「犯罪情報マップ」で、全体的なエリアの治安状況を把握することができます。なによりお勧めしたいのは、家族の生活圏となるエリアを歩いてみることです。清掃状態がよく、花壇の手入れなどの行き届いている街では、犯罪の発生が抑えられると考えられています。反対に、ゴミ置き場などにルールに関する張り紙などが多い場合は、マナーが守られないエリアであることから、治安に関しても懸念が残ります。

割れた窓ガラスを放置するような軽微なことから地域全体が荒廃し、犯罪も増えてしまうという「割れ窓理論(ブロークン・ウインドウズ)」。つまり、美しく整備された街並みには、犯罪を抑止する効果があると言われています

歩行の安全性
小学校や公園、駅やバス停へのルートも実際に歩いて確かめましょう。ポイントは、歩道や街灯の有無、途中、交通量のある大通りを渡る必要がないか、人目につきにくい場所がないかなどです。高学年になると、部活や塾などで暗くなってから帰ってくることもあります。中学生・高校生になると、電車やバスを利用する機会も増えます。子どもの成長後のひとり歩きもイメージして、昼だけでなく、夜の安全性も確認してください。
いくつかの事例をご紹介します。
そのママの悩みは、自宅から公園までのルートに歩道がないことでした。しかも、交通量のある通り沿いを歩かなければならないので、やんちゃ盛りの息子ふたりの手をしっかり握っていないと、危なっかしくて歩けないとのこと。「好奇心旺盛な時期、本当は自由に歩かせてやりたいのだけれど…」。毎日楽しみなはずの公園へのおでかけなのに、子どもを叱りながら歩かなければならないのが、とても残念だと言っていました。この課題解決が、彼女の住まい選びのポイントのひとつになったことは言うまでもありません。

保育園や学童保育など、子どもの居場所
共働き層が増え、両親が仕事している間の子どもの“居場所”の確保が住まい選びの大きなテーマになっています。人気エリアでは、保育園に入れないので、育休期間を延ばした、または、仕事を続けるのを断念したという話も聞きます。一方、各自治体では共働きサポート体制の充実が図られており、保育施設が拡充される一方で、ベビーシッター利用支援や幼稚園での朝夕延長保育を導入している行政区も増えてきています。勤務時間や子どもの年齢によっては、保育園以外でもカバーできる可能性はありますので、調べてみてください。同じく、小学生についても、子どもに食事や学習、遊びの場を提供するNPO法人やボランティア団体の取り組みも活発化しており、両親の勤務の有無にかかわらず全生徒が放課後~夕刻まで学校で過ごせる制度を導入している行政区もあるなど、学童保育以外の選択肢も増えています。

公園は有無だけでなく、子どもが遊んでいるかどうかを確認しよう

公園は、子どもだけでなく、親にとっても子育て仲間ができるコミュニティスペース。マンション見学の際には、近くの公園で子どもたちが遊んでいるかどうかもチェックしたいところです

「自宅近くの公園には、遊んでいる子どもがいないので、同年代の子どもと遊ばせるために、遠い公園まで自転車で行っています」というお母さんがいました。最近は、多くの子どもが保育園に通っているため、子どものいない公園が増えているそうです。子どもは、子ども同士の関係を通じて社会性を学び、成長します。

また、一日中、親子で顔を突き合わせる子育ては大変。子どもが遊んでいるのを一緒に見守りながら、おしゃべりしたり、子育ての相談ができたりするママ友ができれば、子育ては随分楽になると思います。検討するマンションの周辺を歩く際には、公園が有るか無いかだけでなく、子どもたちが遊んでいるかどうかも確認してきてください。

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(最終更新日:2020.01.22)
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