ZEHとは、ZERO ENERGY HOUSEの略で「ゼッチ」と読みます。文字通り、エネルギー消費(光熱費)を限りなくゼロに近づけることを目標とする省エネ住宅のことです。住宅の省エネ化は世界的な流れで、EUでは2020年までにすべての新築住宅をZEH化する方針を打ち出しています。アメリカでも州によっては法制化が進んでいるそうです。日本でも、2012年度からZEH支援事業(補助金制度)がスタートし、2014年には第4次エネルギー基本計画が閣議決定され「2020年までに新築する注文戸建住宅の過半数で、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」という政策目標が掲げられました。ZEH支援事業は、当初は新築戸建住宅を建築・購入する個人向けでしたが、2018年度からマンションなどの集合住宅も支援対象となり、2019年度には21階建て以上の超高層マンションも補助対象となりました。
では、具体的にどのようにZEH化するのか? 仕様は? 価格は? 住み心地は? そんな疑問にお答えします!
ZEH化を実現する省エネと創エネ
省エネといえば家電を思い浮かべる人も多いと思いますが、住宅を省エネ化するにはどうしたらよいのでしょうか? 答えは意外にシンプルです。窓や壁に高断熱素材を使い、空調や照明を高効率仕様にする、夏の日差しを遮り風通しのよい設計にする。このような省エネ対策と、太陽光パネルによる発電や家庭用燃料電池(エネファーム)による発電=創エネを組み合わせることで、光熱費の大幅な削減が可能になるのだといいます。
光熱費の削減額が年間13万円?!
2018年7月から販売が開始された大京「ライオンズ芦屋グランフォート」は、日本初のNearly ZEH-M(ニアリー ゼッチマンション)です。ZEHマンションは電力の削減率により4タイプに区分されています。削減率100%以上がZEH-M、75%以上がNearly ZEH-M、50%以上がZEH-M Ready、そして20%以上がZEH-M Orientedです。
ライオンズ芦屋グランフォートには、屋上に太陽光パネルを733枚設置(214.7kW)。発電した電力を各住戸の蓄電池に貯めつつ、余剰電力を売電する設備が導入されています。同マンションの光熱費について、大京 建設管理部 商品企画室 商品企画課 福谷正和さんは、次のように話します。
「弊社の物件の場合、一般的なマンションの年間光熱費が18万9,000円なのに対して、ライオンズ芦屋グランフォートの年間光熱費は12万1,000円です。断熱性の高い建材やサッシ、エネファーム(家庭用燃料電池・給湯器)などの省エネ設備による削減、さらに太陽光発電の活用と余剰電力の売電により、年間の光熱費削減額は約13万円と試算しています」(福谷さん)
つまり、年間18万9,000円かかっていた光熱費が5万9,000円、約3分の1になるというから驚きです。この省エネに貢献する設備の一つ、エネファームは都市ガスから水素を取り出して発電します。その際に発生する熱を利用して水を温めお湯を貯めておける優れもの。現在、全国で約25万台普及していますが、政府は2030年までに、全世帯の10%にあたる530万台を普及させることを目標としています。
災害時にライフラインが途絶しても1週間以上、生活持続可能!
ZEHマンションのメリットは、光熱費の削減だけではありません。家庭用燃料電池や太陽光発電、発電した電気を貯めておく蓄電池があるため、停電しても電気を使うことができるのです。ライオンズ芦屋グランフォートの場合、各住戸ある災害時用のコンセント(3つ)に加え、40トンの水が常備できる受水槽だけでなく井戸があるため、水道が止まっても大丈夫。電気・水・ガスすべてのライフラインが止まっても7日間以上、生活を持続することができる設備が整っているのです。また井戸水は、平常時は植栽の散水に利用するため、共有部分の水道代の節約にもなります。電気代の削減効果と合わせると、1棟あたり年間約76万3,600円の維持管理費削減になるといいます。
「ZEHマンションのメリットのひとつは、冬は暖かく夏は涼しい断熱性能の高さにより、部屋の隅々までムラなく均一な温度に保てる点にあります。また、エネルギー消費量を減らせるため、CO2の削減や環境負荷を抑えることができる点もご好評いただいています。これらの特長は、ZEHだからこそ可能になったベネフィットだといえます。快適な生活空間と光熱費の削減で、体にも、家計にも、地球にもやさしい暮らしを実現できるのが、ZEHマンションなのです」(福谷さん)
課題は認知度アップと供給戸数の増加
マンションの設備や仕様は、2000年代初頭にこれ以上あげようがないというレベルにまで達していました。2003年には建築基準法の改正により24時間強制換気の導入が義務化され、高気密・高断熱の物件が一般的に。さらに、食洗器や浄水器、浴室暖房乾燥機、ミストサウナ、手入れがラクなフラットなガスレンジ、出し入れしやすいスライド収納、ボウルが一体型の洗面台、モニター付きインターホンなど、差別化と付加価値の追求のために、大きな設備から細部に至るまで考え得る限りの機能が次々と基本仕様に盛り込まれていったのです。その結果、差別化が難しくなってしまいました。
もちろん、それだけが原因ではありませんが、2013年頃から新築マンションの販売数は減少し始めます。不動産経済研究所の調査によると、2019年度上半期の首都圏の供給戸数は前年度に比べてマイナス21.7%、千葉県はマイナス53.4%にまで落ち込んでいます。近畿圏はマイナス9.9%と下落率は低めですが、地域別にみると兵庫県下はマイナス35.6%、京都府下は65.8%と大幅に減少。
このようなマンション不況の打開策として期待されているのが、ZEHマンションなのです。
「弊社では、マンションのZEH基準がまだ決まっていなかった2015年から、戸建てのZEH基準をもとに数ヶ月かけて独自に検証を行いました。その結果、中層マンションであれば事業化が可能であることが分かったため、ライオンズ芦屋グランフォートの開発に着手したのです」(福谷さん)
大京がZEHマンションの開発に着手した当初は、不動産業界においても建築業界においてもZEHマンションの認知度は非常に低く、サッシやガラスの仕様、断熱材の厚みといった独自の仕様を構築することが非常に困難だったといいます。また、ZEHマンションの開発はまだ始まったばかりで、政府による手厚い補助金制度がなければ開発の継続は難しいとのこと。
「補助金なしでのZEHマンションの開発継続が難しい主な要因は、高効率設備やサッシなどの設備機器のコスト高です。ZEHマンションが広く普及することで、供給戸数が増加すれば設備機器のコストダウンも進むのではないかと考えています。そのためには、認知度を上げる必要があります。今年になりZEHマンション市場に参入するデベロッパーが増え始めました。参入する企業が増え認知度が高まり供給が進むことで、ZEHがマンションの新しいスタンダードになる可能性は高いと思っています」(福谷さん)
今年度、ZEHマンションの支援事業に採択されたのは、大京をはじめ野村不動産や近鉄不動産、穴吹工務店、パナソニックホームズ、大和ハウス工業、積水ハウス、総合地所、日鉄興和不動産、阪急不動産など。新規参入は12社で、数年後には供給戸数は4千戸に増える見通しだといいます。
いまのところ、ZEH化にかかる設備機器のコストは補助金が出ているため、マンション価格は一般的なマンションと大差ありません。経済産業省、国土交通省、環境省の3省連携によるZEHマンションの支援事業はまだ始まったばかり。認知度が低い今なら、競争率も低く狙い時です。補助金制度が打ち切られマンション価格が値上がりする前に、是非、購入を検討してみてください。