修繕費用が足りない! 老朽化マンションが抱える厳しい現状と対処法

マンションを含め、建物の経年劣化は防げない問題です。なかでも築年数が進んで空室の目立つ物件では、大規模修繕もままならないといいます。果たして、そのような老朽化が進んだマンションでは、どのような対策がなされているのでしょうか。

修繕積立金が不足するとマンション寿命を縮めることに

マンションの修繕を行うために事前に費用を準備しておくのが修繕積立金です。外壁塗装や屋上の防水処理などの大規模修繕の場合は、あらかじめ計画を立てて毎月所有者から徴収を行います。修繕積立金を計画的に積み立てているからこそ、急な修繕や定期的な補修をスムーズに行うことができるのです。

大規模修繕のときなどに、修繕積立金が少ない、徴収されていないなどの理由で不足金が出た場合は、一時金を各所有者から徴収しなくてはならなくなります。資金不足で適切な修繕ができないと、雨水が浸透し躯体を傷める、配管の故障がさらに拡大し生活に支障が出るなど、マンション寿命を短くする問題が発生するからです。逆に、日頃のメンテナンスをしっかりしていれば、建物寿命を最大限まで延ばすこともできます。1929年に建てられ、2013年に取り壊しとなった「同潤会上野下アパートメント」のように、84年間も存続したマンションの例もあります。

修繕はマンションの寿命を決定づける大切な要因のひとつ。希望通りの修繕を行うためにも、修繕積立金は必要不可欠なのです。

修繕積立金不足のマンションは全体の約35%。空室増加で悪化する可能性も

マンションの修繕積立金について、国土交通省から私たちを不安にさせるような調査結果が発表されました。「平成30年度マンション総合調査」によると、「計画上の修繕積立金の積立額」と「現在の修繕積立金の積立額」の差について見たとき、現在の積立額が計画の金額に比べて不足しているマンションが34.8%もあるというのです。しかも、不足がある割合が20%超のマンションは15.5%にものぼっています。さらに過去には、管理会社や管理組合内部の人による“持ち逃げ”や“使い込み”などの事例もあり、管理費用や修繕積立金が「気づいたときにはなくなっていた」というトラブルも少なくありません。

また、マンションの居室が空室になれば、修繕積立金や管理費は徴収できないので、どうしても当初の計画よりも金額が不足してきます。前述の調査で判明した空室があるマンションの割合は全体の37.3%(前回調査より-3.6%)。完成年次が古く、老朽化していると思われるマンションほど空室が増えている傾向も見られました。
では、築年数が古いマンションは現在どのくらいの数にのぼるのでしょうか。

図1:国土交通省:築後30、40、50年後の分譲マンション戸数
図1:国土交通省:築後30、40、50年後の分譲マンション戸数

図によれば、2019年5月29日時点で、築40年超のマンションは現在81.4万戸、ストック総数に占める割合は約1割となっています。10年後には約2.4倍の197.8万戸、20年後には約4.5倍の366.8万戸となる見込みだそうです。近年は、都心におけるマンション価格の高騰やリノベーションの普及で、中古マンションを購入する人も増えてはいます。しかし図によれば築30年以上のマンション数も増加しているため、空室の割合も高くなり、修繕積立金が計画より不足する物件も増していくと考えられます。
修繕積立金が不足し修繕できないマンションは、物件の状態が悪くなり入居者が減少することで、ますます修繕積立金が不足するという負のスパイラルに陥ります。このようなマンションが増えれば、街の治安も悪くなってしまい、地域への悪影響も少なくないことでしょう。

有効なマンションの老朽化対策は? 新制度を利用して売却を進める手も

マンションの老朽化対策としては、「大規模修繕による改修を優先して行う」「マンションの建て替えをする」「マンション敷地売却制度を利用する」の3つが考えられます。

「大規模修繕による改修を優先して行う」
改修については、柱や梁、壁など躯体部分のコンクリートや鉄筋が傷むことがないように、十年~十数年に一度は大規模改修を必ず行うようにします。これを最優先にするのは、外壁のひびなどから雨がコンクリート内に浸入すると、コンクリートが中性化し鉄筋が錆びて劣化してしまうからです。また、旧耐震基準で建てられた耐震性が不足しているマンションでは、耐震補強工事も必要です。

大規模修繕による改修は十年~十数年に一度が目安です

大規模改修を優先させるといっても多額の費用がかかります。資金を調達できないマンションは、空室である区分所有の部屋をデベロッパーに買い取ってもらうことで、空室であった部屋から修繕積立金を徴収できるようにする方法もあるそう。デベロッパーに現代のニーズに合うリフォームを行ってもらい、賃貸に出してもらうのです。

「マンションの建て替えをする」
これは建て替えの際に部屋数を増やし、増加分を第三者へ売却することで費用を捻出する方法です。ただし、容積率に余裕がある場合や、容積率の緩和措置を得られる場合などに限定されるため、すべてのマンションがこの方法を選択できるわけではありません。また、管理組合総会における区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成が必要となりますので、時間もかかることでしょう。

「マンション敷地売却制度を利用する」
大規模改修も建て替えも実現できない場合の最終手段になります。
「敷地売却制度」は、2014年6月に「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(マンション建替え円滑化法)」が改正されたことで創設された制度で、区分所有者の大多数が賛成すれば、マンションおよびその敷地の売却を行う旨を決議できるようになります。対象は、特定行政庁によって耐震性不足のために除去すべきであると認定されたマンション(要除却認定マンション)。決議には、区分所有者と議決権および敷地利用権の持分価格の各5分の4以上の同意が必要となります。

対岸の火事ではいられない! 住まいの荒廃を防ぐ積極的な取り組みを

マンションの老朽化対策は、いずれも大がかりなものになるため、修繕積立金から捻出するほかないと考えられます。しかし、「平成30年度マンション総合調査を行い結果からみたマンション居住と管理の状況」によれば、分譲マンションのうち「マンションの老朽化問題についての対策を議論し、建替え等又は修繕・改修の方向性が出た管理組合」はわずか21.9%にとどまっています。一方で、「議論は行ったが方向性が出ていない管理組合」は16.6%、「議論を行っていない管理組合」は56.3%となっており、老朽化問題についてうやむやになっているマンションが約7割にのぼることがわかります。

マンション老朽化や修繕費用の問題は他人事ではありません。修繕積立金の不足は建物の劣化とともに生活の不安をもたらします。築年数が古いマンションが増加している今、そうした物件については議決権を持っている人全員が積極的に老朽化問題に取り組み、大事な我が家の荒廃を防ぐ必要に迫られているのではないでしょうか。

参考:平成 30 年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状

(最終更新日:2019.11.13)
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