同居で別世帯だったお父様が亡くなって、80代のお母様を扶養家族にしたら介護費用が大幅にアップしてびっくり!自分の税金が減ってもお母様の介護費用が大幅に増えてしまっては元も子もありません。親を扶養家族にすると税金や社会保険にどんな影響があるのか整理しておきましょう。
親を扶養に入れるメリットは?
親を扶養家族にするとき、まず知っておきたいのは「税法上の扶養」と「健康保険制度上の扶養」は別物だということです。それぞれの要件やメリットをまとめてみました。
1. 税法上の扶養のメリット
税法上の扶養にできる老親は70歳以上で、収入が年金収入のみであれば年間158万円以下であることです。遺族年金や障害年金は収入に含まれませんので、お母様が遺族年金とご自分の老齢年金で暮らしていれば対象となる場合が多いでしょう。
また、別居でも生計が一緒と認められれば扶養に入れることができます。生計が一緒と認められる明確な基準はありませんが、たとえば一定の生活費や医療費を送金していることなどが必要です。
70歳以上の老親を扶養家族とすると、同居の場合で所得税58万円、住民税45万円に対する税金が控除されます。たとえば所得税の税率10%、住民税の税率10%の人が別居の老親を扶養に入れた場合、年間10万3,000円の減税となります。1年間でこの額ですので、これが10年間続けば減税額は103万円となり、ばかにならない金額です。また、所得が高く所得税率も高くなれば、さらに減税のメリットを受けられます。
2. 健康保険上の扶養は75歳未満まで
これに対し健康保険上の扶養は、親が60歳以上であれば「年収が180万円未満」が要件となります。この場合遺族年金や障害年金も収入に含みます。別居の親も扶養に入れることは可能ですが、親の年収以上の仕送りが必要となります。
お母様を扶養家族にした場合、お母様は健康保険料(税)を支払わなくてもよい、子が親の分の医療費控除を受けられる、といったメリットがあります。しかし、75歳以上になると後期高齢者医療制度として、健康保険の制度から独立した制度の対象となり、親を健康保険上の扶養家族にすることはできなくなります。
扶養にすることで親の介護費用がアップする場合も
税法上、健康保険上はメリットが目立つ親の扶養ですが、実は、親が介護保険サービスを利用するようになると思わぬ費用アップにつながることがあります。介護保険サービスを利用したとき、一定額を超えた分を払い戻してくれる高額介護サービス費の所得区分が世帯単位となっているからです。
たとえば、お母様に老齢年金78万円と遺族年金70万円の年間収入があり、要介護2の認定を受けて在宅で介護保険上限のサービスを受けていたとします。この場合お母様の介護保険サービス利用料の自己負担額は1割です。自治体によって異なりますが、在宅介護で要介護2であれば自己負担額の上限は2万円弱です。しかし、お母様の課税される年金の収入額は78万円なので、子と別世帯であれば、お母様の介護費用の自己負担額は月1万5,000円となります。
ところが、お母様を子の扶養に入れて、住居も家計も一緒になり同世帯となった途端、所得基準が「現役並み所得者」となってしまい、お母様の1ヶ月あたりの負担額は4万4,000円にアップします。一気に月額2万9,000円もの負担が増えてしまいます。
利用者負担の上限額
介護施設入居の場合はさらに費用負担に差が!
もし、今後お母様の介護度が増して、特別養護老人ホーム(以下、特養)など介護保険施設に入居するとなると、さらに費用に差がつきます。特養など介護保険施設に入居した場合、所得により住居費や食費の軽減措置があるからです。所得による特養の費用負担は以下の通りです。
利用者の所得による特養の費用負担限度額
軽減措置を受けるときの注意点としては、2015年の介護保険制度の改正後、遺族年金や障害年金などの非課税年金も収入に含まれるようになったこと、かつ単身者であれば預貯金が1,000万円以下であることなどが要件となりました。前述のお母様の例では、老齢年金78万円と遺族年金70万円を合算した148万円が所得区分の基準となります。お母様の預貯金が1,000万円以下で単身世帯であれば所得区分は第3段階となり費用の軽減を受けられますが、子と同世帯であれば第4段階となります。
もしロビーやダイニングを共有してグループで生活するユニット型個室にお母様が入居して、要介護2の介護サービスを受ける時、別世帯の場合と扶養親族として同世帯になった場合で費用を比較してみましょう。
単独世帯と子と同世帯となった場合の特養入居費用(1ヶ月30.4日)の比較
お母様を扶養親族として同世帯となった場合、月4.8万円の負担増となってしまいます。
基準は厳しくなる方向に
少子高齢化がまだまだ続く中、医療や介護の自己負担の上限額を決める所得区分などの要件は厳しくなる傾向にあります。高齢者であっても所得に見合った費用を負担してもらおう、という考え方になってきているからです。同居の親を別世帯とする「世帯分離」も、介護費用を軽減したいから、という理由では認めない自治体も増えてくるのではないでしょうか。今使える医療や介護の軽減措置が将来も使えると思っていると、将来、医療や介護費用の増加に家計が耐えきれなくなる可能性も出てくるでしょう。
現役世代の給与が伸び悩む中、公的な医療保険や介護保険の制度を維持し続けるために、所得とサービスに応じた費用負担はまだまだ進むでしょう。私たちも家計の中で将来の医療や介護に備える予算を考えておく必要がありそうです。
参考サイト
国税庁:お年寄りを扶養している人が受けられる所得税の特例
厚生労働省:2019年度介護報酬改定について