【知ってる?】資産の寿命を延ばす「金融ジェロントロジー」という考え

今年の6月3日に金融庁が発表した報告書のなかで、男性が65歳以上、女性が60歳以上の夫婦では、老後30年間生きるためには老後資金として2,000万円不足すると書かれたことで、世間での資産運用への興味関心が高まりました。NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などの制度が整備されてきたこともあり、現役世代の資産運用や子どもへの金融教育などにもスポットライトが当たるようになりましたが、今回はあえて高齢者にスポットライトを当ててみたいと思います。

金融ジェロントロジーってなに?

資産運用への興味関心が高まるにつれて、日本でも「金融リテラシー」や、「金融教育」という言葉を耳にする機会が増えてきました。みなさんも、これらの言葉に興味があるかもしれません。しかし、今回は「金融ジェロントロジー」という耳慣れない言葉について学んでいきましょう。

ジェロントロジーとは、老年学という意味で、人間が歳を重ねていくことが社会や経済にどのような影響を与えるかを、様々な観点から研究する学問です。この言葉に「金融」がついているわけですから、平均寿命が長くなっていくなかで、老齢期の資産をいかに管理するかなどが主なテーマになると想像できますね。

健康寿命と資産寿命

国立社会保障・人口問題研究所が発表した『日本の将来推計人口(平成29年推計)』によれば、2015年における男性の平均寿命は80.75歳、女性は86.98歳です。このデータを見ると、ほとんどの人が80歳まで生きる前提で老後資産について考えたほうがよさそうですが、いま20歳と成人になったばかりの方が現在の一般的な定年年齢である65歳を迎える45年後、つまり2065年の推計値を見ると、男性の平均寿命は84.95歳、女性は91.35歳と、さらに長寿化が進みます。つまり、ほとんどの男性は85歳、女性に至っては90歳以上まで生きることを考えなくてはいけないのです。

本来であれば、長生きすることは素晴らしいことなのですが、そこには前提条件があります。少なくとも、現役時代と変わらないような生活が送れるということです。仮に長生きしたとしても、貧しい状態で長生きすることは幸せとは限りません。そこで、考えなくてはいけないのは、いかに生活水準を落とすことなく老後生活を送るかということになります。

これからのテーマは自然と延びていく「健康寿命」にあわせて、「資産寿命」をいかに延ばしていくかになります。

「資産寿命」について考えてみましょう/PIXTA

老後も働かないといけない? 資産運用も必要?

前述のようにNISAやiDeCoといった制度により、現役世代が老後に向けて資産運用をしていく制度は整ってきていますが、予想されている日本人の平均寿命を考えると、老後は働きながら資産運用もする必要性が出てくることが分かるかと思います。

日本ではターゲットイヤーファンドといって、年齢が若いうちは株式の比率を高めに、債券の比率を低めにしてリスクを高めに設定し、年齢を重ねるにつれて株式の比率を下げつつ、債券の比率を上げてリスクを抑えていく投資信託が有名ですが、米国ではターゲットインカムファンド、またはマネージド・ペイアウト・ファンドと呼ばれる投資信託が流行っています。

たとえば、毎年、投資資金の4%を払い出す目標の投資信託であれば、運用して発生した利益から4%分を払い戻しますが、運用がうまくいかなかった場合は投資元本を取り崩してその不足分を補うというものです。既に日本でも同様の投資信託は売られており、個人で老後に資産運用をする自信がない人は、このような金融商品をうまく活用するのも1つの手段かもしれません。

お金以外の問題にも注意しよう

主にお金の話をしてきましたが、それ以外にも注意すべき点があります。内閣府が発表した「平成29年版高齢社会白書」によれば、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症高齢者になると推計されています。認知症に特化した保険や家族信託などの金融商品もありますが、何よりもどのように家族に負担なく自分の資産を管理・継承させるかなども考えていかないといけません。たとえば、現在でも既に成年後見制度がありますし、金融機関が遺言信託や生命保険信託などのサービスを提供しています。悲しい話ではありますが、お金がからむと親族間でも揉めることは少なくありません。そのような事態を避けるためにも、もしもの時のために、ある程度の年齢に達した段階で、健康で判断能力があるうちに既存の制度やサービスを適切に活用する必要があります。

高齢化が進むことが誰にでも予想できる日本においては、金融機関は高齢化社会に適した様々な金融商品を開発していくはずです。しかし、自分の知識がなかったり、家族の理解がないままに金融商品をやみくもに購入することは危険です。何歳であっても金融に関するリテラシーを高める努力が求められる時代になってしまったのです。

(最終更新日:2019.11.14)
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