海外旅行で突然健康トラブルに見舞われたら…。知っておきたい対処法と予防策

楽しみにしていた海外旅行。せっかくの旅行なのに体調不良を引き起こしてホテルに缶詰め、もしくは病院へ、なんていう苦い経験はありませんか。生活習慣も言葉も違う国での健康トラブルは避けたいものです。今回は「感染症」や「エコノミークラス症候群」「時差ボケ」など、“海外旅行にまつわる健康トラブルの対処法や予防策”を紹介します。ちょっと気をつけるだけで感染しない、重症化しないこともあります。旅に出る前の参考にしてください。

旅行前には診察を受けておきましょう

旅行前にはかかりつけの病院で相談しておくと安心です。何も症状がないのに病院へ行くことにためらう人もいると思いますが、今の自分の健康状態をふまえ、携帯したほうがよい薬、旅先で注意することなどをアドバイスしてもらえるでしょう。

その際、旅先がどの国なのか、どんなことをするのかといった具体的な内容と、自身がこれまでかかった病気や受けた予防接種などについて整理しておきましょう。同じ国に行く場合でも、ホテルや観光地で過ごす時間が長い人と、バックパッカーのように旅する人とでは、注意すべき点も大きく異なります。

また持病を持っている人なら、悪くなった時に備えてかかりつけの病院で対処法を聞いておくことも大切です。
旅先ではどんな感染症が待っているかわかりません。万が一に備えてワクチンを打っておけば防げるものもあります。予防接種を受けることを考えるなら、旅行の6週間前には受診しておきたいものです。

旅行前にかかりつけ医に相談するのがおすすめ

発熱を引き起こす感染症について

発熱を引き起こす感染症には様々なものがありますが、ワクチン接種を受けていない人が海外旅行でかかる可能性が高いのが麻しん(はしか)です(日本の土着ウイルスは排除状態にあります)。麻しんの感染経路は空気感染、飛沫感染、接触感染で人から人へと感染し、感染力は非常に強いといわれています。潜伏期間は10〜12日で、その後高熱、咳、鼻水が続き、口の中に白い発疹ができます。一旦熱は少し下がりますが再び上昇し、その後体中に赤い発疹が現れます。特別な治療法はなく、対症療法として薬を投与するなどして症状を緩和させます。かからないためにも、ぜひ予防接種を受けましょう。効果を確実にするためには2回の予防接種が必要です。

予防接種も効果的

また、感染症は人から人へうつるものだけでなく、虫が媒介するものもあります。以前日本でも話題になったデング熱はウイルスを持っている蚊が人を刺すことで感染します。38〜40度の発熱があり、激しい頭痛や関節痛、発疹などの症状が現れます。ほかにも蚊を媒介して感染するものとしては、マラリア、黄熱、ジカウイルス感染症、日本脳炎などがあります。いずれも重度から軽度まで症状の程度に差はありますが、発熱が特徴。頭痛や吐き気などを伴うものもあります。
ちなみに蚊が媒介する感染症でも、デング熱とマラリアでは蚊の種類が異なります。マラリアを媒介する蚊はハマダラカといって夜に活動する蚊なので、夜間の外出を控えることで感染を防ぐことができます。また、長袖長ズボンの着用や、虫除けスプレーなども効果的です。マラリアには予防薬、黄熱には予防接種があるので流行地へ渡航する際は専門医に相談して、処方を受けたり接種しておくとよいでしょう。

余談ですが、日本脳炎はその病名から日本にしかない病気と思われがちですが、実はそうではなく、アジア圏で広く流行している病気です。現在でも3万5,000〜5万人の患者がおり、1万〜1万5,000人が死亡していると推定されています。

感染のきっかけとなる「食」にも注意を

海外旅行では「食」にも注意したいところです。食べ物や飲み物からうつる感染症もたくさんありますが、今回はコレラや細菌性赤痢、A型肝炎についてピックアップします。

コレラは数時間〜5日程度の潜伏期間を経て、下痢や嘔吐が起こります。重度の場合、米のとぎ汁のような水溶性便が大量に出ます。細菌性赤痢は1〜3日の潜伏期間の後、下痢、発熱、腹痛が起こります。菌の種類によって症状に差がありますが、ひどい場合は腸内からの出血により血便が出たり、しぶり腹といって、トイレに行った後もすっきりせず、またトイレに行きたくなる状態が続きます。コレラや赤痢には有効な抗菌薬の投与と下痢による脱水症状を緩和するための水分補給が行われます。

同じように食べ物から感染する病気でも、A型肝炎の主な症状は下痢ではなく、発熱や体のだるさです。2〜7週間の潜伏期間の後に発熱、全身のだるさ、食欲不振、吐き気、嘔吐などの症状が見られ、数日後には黄疸が現れます。A型肝炎の治療は対症療法です。

予防策としては、生水や氷、加熱されてない食べ物を口にしないこと。カットフルーツも加工時に使用した水が汚染されていることもあるので注意が必要です。また誤って飲んだプールの水から感染した例もあるので、気をつけましょう。A型肝炎には予防ワクチンがあるので、旅行前に接種しておくこともおすすめです。
もし、安静にしていても38度以上の熱が3日以上続いたり、下痢が長く続くようであれば病院へ行くようにしましょう。

エコノミークラス症候群にも気をつけて

海外旅行は飛行機に乗っている時間も長くなります。その際、足の膝が腫れたり、ふくらはぎや大腿に激しい痛みがきたら、エコノミークラス症候群を疑いましょう。狭い場所で長時間同じ姿勢のままでいると、血の流れが悪くなり、血管のなかに血の塊が作られ、痛みや腫れを引き起こすのです。ひどくなると血の塊が剥がれ、それが肺の血管につまると胸が痛くなったり、呼吸が苦しくなったりするなどの症状が起こります。これを肺塞栓症(はいそくせんしょう)といい、重症化すると死亡する可能性もあります。軽度の場合、自覚症状はなく、できてしまった血栓も自然になくなります。

対策としては、水分をしっかりとることと体を動かすことです。時々通路を歩いたり、着席のときも足を動かすなど心がけましょう。また、血流を止めないように、体を締め付けるジーンズなどは避け、ゆったりとした服を着ることもおすすめです。
エコノミークラス症候群という呼び名ですが、当然ビジネスクラスでもファーストクラスでも発症の可能性はあります。血の巡りを意識して、軽い運動や服装に留意しておきましょう。

機内では水分補給をこまめに
可能なら、時々通路を歩くのもおすすめ

時差ボケなく旅行を楽しむためにしておきたいこと

日常生活を送るなかで、人の体は生活リズムを作っています。朝起きて夜寝るまでの間に3回食事をとり、体を動かすことで自然と規則正しいリズムを作っているのです。ところが海外に出かけると時差があるために、いつものようにはいきません。夜がきても眠くならず、昼間頭が働かなくなってしまいます。これが時差ボケです。
時差ボケを解消する特効薬はありませんが、解消できる対策はいくつかあります。日本でできること、飛行機のなかでできること、到着後できることの3つに分けて紹介しますので、ぜひ実践してみてください。

日本でできること
・現地の時間に合わせるように、睡眠や起床の時間を少しずつずらしていきましょう。1日1時間ほど少しずつずらしてみてください。
・朝、明るい光を浴びれば東向き、夜、明るい光を浴びれば西向きの旅行に適したリズムになるといわれています。

睡眠時間、起床時間を少しずつずらしておくのがおすすめ

飛行機のなかでできること
・時計は機内に入ったらすぐに現地時刻に合わせましょう。そして目的地の時間に合わせて食事や睡眠をとります。
・食べすぎ、アルコールやカフェインの取りすぎに注意しましょう。
・水分を十分とってこまめに体を動かしましょう。

搭乗したら現地時間に時計の針を合わせましょう

到着後できること
・昼間はしっかりと日光を浴びましょう。
・現地の時間に合わせて食事をとりましょう。
・夜到着したら、現地の時刻に合わせて眠るようにしましょう。
・朝到着しても強烈な眠気が襲ってくるときは3時間ほど睡眠を。ただ、それ以上は眠らず起きておくようにしましょう。

まとめ

せっかくの海外旅行を台無しにしないためにも、まずは出国前に病院で診察を受けておくと安心です。そして旅先では、口にするものや蚊といった感染ルートに注意しておくことが大切です。また、エコノミークラス症候群や時差ボケなどは予防策を取り入れて、体をしっかり調整しておきましょう。そうすれば、海外旅行が今まで以上に楽しめることでしょう。

取材協力:川崎医科大学総合医療センター 小児科部長 中野 貴司先生

参考元:厚生労働省検疫所FORTH

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