分譲住宅の取材・記事執筆を約20年行い、住まいアドバイザーとして活動されている井上真樹さん。その取材経験を基に「後悔しない住まい選び」をテーマに、これから住宅購入を考える方に向けて経験談からのアドバイスをしていただきます。
さて、前回記事(住宅情報サイトで迷子にならないために「したい暮らし」の優先順位を!)では、住まい探しの前に、家族で「したい暮らし」の優先順位をつける大切さについてお話しました。今回は、「優先順位」をつけて住まい選びしていく際に、ついつい陥りがちな“迷い”について、私が出会った購入前の方々の事例を思い出しながら、“迷い”を抜けるヒントになる考え方を紹介したいと思います。
優先順位は、自分では変更できないものから。立地・環境>内装・設備
住まい探しの入り口となる「モデルルーム見学」。プロによってコーディネートされた空間は、新しい住まいへの憧れを刺激します。でも、「こんな空間に住みたい!」と購入を決めてしまうのは、少し早計です。
ここで思い出してほしいのは、住まいには、自分で変更できる部分と変更できない部分があること。間取りや内装、設備は、建物構造に関わる部分を除いて、かなり変更が可能です。一方、立地や環境、さらに、住戸の方位(採光性)や眺望は、住み始めてからいくら後悔しても、自分たちでは変えられません。同様に、外観や建物構造、共用部も変更できない部分ですね。
何を優先するかに迷ったら、あるいは、絞りこんだ物件の選択に迷ったら、自分たちでは変更できないことから優先してほしいと思います。
「頭で考える」と「心が動く」とのバランス
ここで、印象に残っているある購入者の方の事例をご紹介します。Aさんご夫婦は、とても緻密に優先順位の表を作り、各物件を点数化して比較検討していました。でも、最後に選んだ物件は、最も点数が高い物件ではなく、点数では2番目の物件でした。
理由を伺うと、優先順位として挙げてはいなかったけれど、2番目の物件の窓からの眺めに強く惹かれたとのこと。その選択を聞いて、とてもいい出合いがあったことを嬉しく思いました。
「したい暮らし」の優先順位、それをかなえるための条件を具体的に整理して、住まいを探すことで、より家族の「したい暮らし」を実現できる住まいに出合ってほしいのですが、その過程で、「頭でっかち」になりすぎないことも大切です。
住まいは家族の人生を託すものですから、「心が動く」部分も大切にしてほしいと思います。もちろん、それだけを優先させて、「したい暮らし」ができないのでは、元も子もありませんが…。「頭で考える」ことと「心が動く」ことのバランスも意識しながら、住まい探しを楽しんでください。
リセールバリューにとらわれる必要があるかどうか
住まい探しの際、よく使われる言葉に「リセールバリュー」があります。つまり購入した物件を再販する時、どのくらいの価格で売れるかという指標です。もちろん投資を目的に住まいを購入する場合は見逃せない項目になりますが、そうでない場合は、その指標にとらわれる必要はないのではないかと思います。
Bさんご夫婦の場合、とあるターミナル駅からバスでアクセスする場所に、「したい暮らし」がかなう物件を見つけました。子どもたちが大好きな大型公園の近くで、スーパーや小学校、公共施設なども近くに揃っており、「ここに決めよう」とした時、不動産関係の知人に「駅に近い方がリセールバリューが高いのではないか」と言われ、迷ってしまいました。いずれ売る予定は、今のところないのだが…ということでした。
物件価格は4,400万円。現在の賃貸料は13万5,000円とのことです。仮に、現在の賃貸に住み続けた場合と比較してみます。お子さんが20歳を迎える18年後に売却することを想定して計算してみると…、
月々13万5,000円×12ヵ月×18年=2,916万円
物件価格4,400万円-2,916万円=1,484万円
購入の際の手数料、管理費の差額、賃料の上昇などを除いた大雑把な計算で恐縮ですが、おおよそで考えると、4,400万円の物件が1,484万円以上で売れれば、損はしない計算になります。
さらに言えば、ターミナル駅へ徒歩2分の始発バス停から出られる点や大型公園に近い点、また、お子さんのいるご家族が「したい暮らし」がかなうと思った立地であれば、同じ理由で購入したいと考える方もきっといるはず。必ずしも、一般的なリセールバリューという指標に当てはめて考える必要はありません。なにより、お子さんの大好きな公園に近く、ご家族が理想とする暮らしがかなうのであれば、そこで得られる家族の時間の価値は、お金には代えがたいものではないかと思います。
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(掲載の画像素材はPIXTAより)
(最終更新日:2022.02.03)