花粉症のハイシーズンとも言えるスギやヒノキ科の花粉飛散時期はまだ先ですが、この度花粉症の方には見逃せないニュースが、この秋に話題となっています。花粉症薬の保険適用外化について、まとめてみました。花粉症の方もまだ花粉症ではない方も、現在の動きを知ることで、今後の展開に備えることができるかもしれません。
花粉症の薬が保険の対象外に?今なにが起こっているのか
2019年8月23日、健康保険組合連合会(=健保連)は、医療費の抑制を目的とした政策提言を公表しました。医療の現状で課題となっている改善策をまとめたもので、
・「かかりつけ医」の機能強化
・生活習慣病治療薬の適正な選択
・一定の定められた期間内に反復使用できる処方箋(=リフィル処方箋)
・花粉症治療薬の保険適用のあり方
に焦点を当て、いかに医療費の抑制を実現できるかを調査しています。
今回、医療機関を受診して処方される花粉症薬のうち、同じような効果の市販薬で代替できるものを公的医療保険の対象外することで、年約600億円の薬剤費を削減できることが分かり、花粉症薬が保険適用外になる可能性が出てきました。
花粉症薬を保険適用外にするとなぜ、医療問題が改善するのか
医師に処方してもらう「医療用医薬品」に対して、ドラッグストアなどで買える「要指導医薬品」「一般用医薬品」のことをOTC医薬品と言います。健保連は、軽症者向けの医療用医薬品としての花粉症薬の一部をOTC医薬品にスイッチするだけで、約36億円節約できるとしています。なぜ、花粉症薬がターゲットになったのでしょうか。
花粉症患者の人口は年々増え続けている
財団法人日本アレルギー協会・奥田稔氏が行った「全国疫学調査(2008年)」によると、花粉症全体の有病率は29.8%、そし、スギ花粉症の有病率は26.5%でした。スギ花粉症の有病率は10年間でおよそ10%増加していました。
また、花粉の飛散量は年次変動が大きいものの年々増加していること、花粉症の発症年齢が年を追うごとに低年齢化していることなどから、花粉症を患っている人は今後増加すると考えられています。
花粉症患者は通院しない人が多い
花粉症は人によって症状が重い場合もあり、市販薬だけでは対応できないケースもあります。その場合、診察の必要性があると考えられますが、東京都健康安全研究センターの「花粉症患者実態調査(平成28年度)」によれば、市販薬で治療する人よりも、病院で受診しない人が増えてくるとのこと。
その原因はOTC医薬品の購入価格は、医療機関で受診し、OTC類似薬を処方された場合(自己負担額3割)に比べて、安いものが多いからと考えられます。
これらのことから、保険適用外にすると、国の「医療費」の予算が大幅に削ることができると考えて花粉症薬が今回対象になったと考えられます。
保険適用範囲の見直しの背景
ご存知の通り、日本人の平均寿命は長くなっています。医療機関にかかる機会の多い高齢者が急速に増え、医療費全体の約6割を占めているというのが現状です。その財源には、現役世代の保険料のおよそ半分近くが回され、国全体の医療費の増加とともに健康保険料は年々引き上げられているのです。そのうえ、現役世代の少子化が加速していることもあり、年々財源が厳しくなっています。
この医療保険制度の問題が放置されると、半分の健康保険料を負担している企業、現役世代ともに、健康保険料支払いの負担が大きくなり、企業は給与を上げにくくなる、現役世代は負担が大きくなり、すべての国民を何らかの医療保険に加入させるという、日本の保険制度の考え方(国民皆保険制度といいます)が崩壊する可能性があります。これを阻止するために、保険適用される医薬品の見直しが行われることになったのです。
求められる健康面の自己管理
健保連は、保険財政悪化への対応策と位置付け、医療費削減効果があるとの試算を発表し、医療機関で処方される市販薬と同じ成分の花粉症治療薬について、医療保険の適用から除外し全額自己負担にすべきだと提言しました。これにより、医療費の削減が見込めるいっぽうで、1~3割 の支払いで済んでいた花粉薬代は、全額負担となり個人の家計が苦しくなることが考えられます。今後は、健康面に関する自己管理がますます重要になりそうです。
(最終更新日:2021.03.29)