住宅購入の判断に大いに関係する住宅ローン。不動産や金融についてその業界の人に匹敵する知見をもつ、公認会計士ブロガー千日太郎さんが、連載形式で住宅を買う側・住宅ローンを借りる利用者側の視点で情報発信。2019年9月の住宅ローン金利について世界情勢や国内金融市場にインパクトを与えそうな事柄を踏まえ、解説いただきます。
長期金利がさらに下がり、日銀が下限としているマイナス0.2%よりも低い水準で推移しています。
そして8月21日には、住宅金融支援機構の発行する機構債(RMBS・住宅ローン債権担保証券)の表面利率が0.15%と発表されました。前月の0.21%から0.06%下がっています。
千日としては、今の状況が8月末まで続けば2019年9月の【フラット35】の金利は機構債の表面利率とおおむね同じ幅(0.06%)下がると予想しています。
本当に9月の【フラット35】金利は下がるのか?下がるとすれば何%下がるのか?についてお話ししましょう。
長期金利と【フラット35】の金利は連動する?
6月の1.27%から8月の1.17%にかけて約0.1%下がっています。下のグラフにあるように長期金利と連動して【フラット35】の金利も下がっていますよね。
今回も長期金利と連動するとすれば、8月よりも約0.1%下がるということになるのですが、今回は機構債の低下と同じ幅の0.06%下がる方が濃厚だと思っています。借りる我々サイドは金利が安い方が嬉しいですが、それでも6月から9月までのわずか3ヶ月の間に0.16%も金利が下がったということになりますよね! 半端ないです。
機構債の表面利率でさらに確度の高い予想が可能
住宅ローンの【フラット35】を融資するのは住宅金融支援機構という国の機関であり、その事務代行を民間の金融機関が行う「公」と「民」のコラボで行っています。
例えば「買取型」は、住宅金融支援機構が金融機関から【フラット35】の債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて「機構債(RMBS・住宅ローン債権担保証券)」という形で販売するという仕組みになっています。
私たちは融資事務を代行するアルヒ株式会社などからその融資実行月の金利で【フラット35】のお金を借りるのですが、その金利の元をたどると住宅金融支援機構が販売する機構債の表面利率なのですよ。
つまり、下記のように連動する関係にあるのです。
機構債の表面利率が高くなったら → 高くなった分だけ【フラット35】の金利も高くなる
機構債の表面利率が低くなったら → 低くなった分だけ【フラット35】の金利も低くなる
機構債の表面利率と【フラット35】の推移
実際にどれだけ連動しているのか? 毎月20日前後に発表される機構債の表面利率とその翌月の【フラット35】の金利を比較してみましょう。
【2019年機構債の表面利率と【フラット35】金利の推移】
9月まで、機構債の表面利率と【フラット35】の金利がほぼ連動していることが見てとれます。試しにその差を一覧にまとめてみました。
機構債の表面利率は仕入れ値、【フラット35】の金利は売り値
【フラット35】の金利を売り値とするならば、機構債の表面利率は仕入れ値ですよね。ならば、その差は利益ということになりますが、2019年度中は0.95~0.97でほぼ一定となっています。
便宜上利益といいましたが、住宅金融支援機構は国の機関で営利を目的としていませんので、この差はこの一連の仕組みを維持するための必要経費を賄うためのものであり、そのため一定になるようになっているのです。
そのため、8月20日に発表された機構債の表面利率が0.15%となり、前月から0.06下がったということは、【フラット35】の金利もまた0.06下げるべきだと住宅金融支援機構が考えているということを意味するのですね。
つまり、予想というよりは予定に近い確度で来月の【フラット35】の金利が下がることが予め分かるのです。
まとめ~機構債はあくまで予定
この記事を書いている8月20日時点までは、米国の長期金利の低下が波及して日本の長期金利も下がるという状況が続いています。
機関投資家は国が取り扱う安全な債券として機構債を取得しています。このまま状況が変わらなければ、発表された低い表面利率で機構債が販売され、私たちは低い金利の【フラット35】で融資を受けることが出来ます。
しかし、あくまで予定は予定です。この発表から何らかの大事件が発生して長期金利が急上昇するようなことがあれば、機構債の表面利率も上げざるを得ません。機構債が売れなければ私たちに融資する【フラット35】の資金が作れないからです。
文中では確度が高いと言っていますが、あくまでそれは今から月末まで大きな環境の変化が無かったらという前提での話です。実際の金利の動向と異なってくることも、大いにあり得ることですので、それを承知の上でご利用ください。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。
(最終更新日:2020.11.17)