一家の家計の担い手が亡くなった場合に、その後の家計を支えるのが公的な遺族年金制度です。しかし、「万一のことがあったら遺族年金がもらえる」ことは知っていても、どんな仕組みなのかは知らない人も多いようです。どのご家庭でもあり得る「万一」に備えて、公的な遺族年金制度について確認しておきましょう。
受け取れる遺族年金は家庭ごとに違う
「近所の○さんは、△円くらい遺族年金をもらっているらしいけど、うちもそんな感じかしら」と聞かれることがあります。しかし、他人が受けている遺族年金の受給額は、あなたが受給できる遺族年金額の参考にはならない場合が多いでしょう。なぜなら、公的な遺族年金の受給額は、亡くなった人が加入していた年金制度や保険料の納付状況、収入金額、家族の年齢などによって違うからです。
公的な遺族年金は、国民年金保険または厚生年金保険の被保険者、または被保険者であった人が亡くなった場合に、その人によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。遺族年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」があります。国民年金のみに加入している自営業者の人が亡くなった場合には「遺族基礎年金」が受給できる可能性があり、厚生年金に加入している会社員は同時に国民年金の加入者でもあるので、その遺族は「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」が受給できる可能性があります(下記表1)。
<表1 夫が死亡した場合に妻が受給できる遺族年金>
次に、公的な遺族年金の種類や内容を確認してみましょう。
子どものいる家庭が受け取れる「遺族基礎年金」
「遺族基礎年金」は、国民年金の被保険者が亡くなり、遺族として配偶者と「子」、あるいは「子」のみが残された場合に受給できる年金です。この場合の「子」は、18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子」もしくは、「20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子」を指します。「子」がその年齢要件を満たさなくなると、遺族基礎年金は受給できなくなります。
たとえば、配偶者と2人の子(夫死亡時には8歳、5歳)に遺された場合は、年額1,229,100円(780,100円+224,500円+224,500円)が受給できることになります(表2)。
<遺族基礎年金の受給額(平成31年4月分から)>
年金額=780,100円+子の加算
子の加算:第1子・第2子/各224,500円、第3子以降/各74,800円
ただし、遺族基礎年金を受給するためには、下記の<遺族基礎年金の支給要件>のような要件を満たすことが必要です。国民年金保険料の未納期間があると、老後の年金が受給できなかったり受取額が少なかったりするだけでなく、万一の際、遺族が遺族基礎年金が受給できない場合もあるのです。国民年金保険料の支払いが難しい場合は、保険料の免除や猶予の制度もあるので検討されるとよいでしょう。
<遺族基礎年金の支給要件>
・被保険者または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき。
(ただし、亡くなった人の保険料納付済み期間(保険料免除期間を含む。)が加入期間の3分の2以上あること)
・ただし令和8年4月1日前の場合は、死亡日に65歳未満であれば、死亡日の属する月の前々月までの1年間の保険料を納付しなければならない期間のうちに、保険料の滞納がないこと。
なお、国民年金だけに加入している自営業者等が遺族基礎年金を受け取らずになくなった場合には、条件を満たしていれば、遺族は、寡婦年金もしくは死亡一時金を受け取ることができます。寡婦年金と死亡一時金の両方の受給要件を満たしている場合には、どちらかを選ぶことになります(両方は受け取れません)。
<死亡一時金と寡婦年金>
納めた保険料や加入期間によって年金額が異なる「遺族厚生年金」
会社員などの厚生年金保険の被保険者や老齢厚生年金の受給権者が亡くなった場合には、遺族は「遺族厚生年金」を受け取ることができます。
遺族厚生年金の受給額は、受け取る予定だった(受け取っていた)老齢厚生年金(報酬比例部分)の額の4分の3に当たる金額で、加入期間中の報酬額や加入月数に基づいて計算されます。加入月数が300ヶ月に満たない場合には300ヶ月(=25年)で計算されるので、若くして亡くなり加入期間が短かった場合にも、まとまった金額の年金が受け取れます。
遺族厚生年金の受給対象者は表5のとおりですが、30歳未満の妻が受け取る場合には5年間の年金に限られ、夫や父母、祖父母は年齢要件を満たさなければ受け取れません。
<遺族厚生年金の受給対象者>
死亡した人によって生計を維持されていた
・妻(ただし、30歳未満の子のない妻は、5年間の有期給付)
・子、孫(18歳到達年度の年度末を経過していない人または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の人)
・55歳以上の夫、父母、祖父母(支給開始は60歳から。ただし、夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給できる。
また、一定の条件を満たす「妻」が遺族厚生年金を受け取る場合には、40歳から65歳になるまでの間、585,100円(年額)が加算されます(中高齢寡婦加算)。
中高齢寡婦加算が受けられるのは、「夫の死亡時に40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子がいない妻」もしくは、「遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた『子のある妻』が、子が年齢要件を満たさなくなって遺族基礎年金を受給できなくなったとき」です。
なお、遺族年金受給者が本人の老齢年金を受け取ることができるようになる65歳以降は、年金の受取方が変わります。65歳以降受け取る老齢年金が老齢基礎年金のみの場合には、「老齢基礎年金+遺族厚生年金」を受け取ることができます。老齢年金として老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取ることができる場合には、老齢基礎年金と老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。
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「我が家の場合」を、確認しておこう
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このように、遺族年金がどれくらい受けられるかは、公的年金制度の加入状況や報酬額、遺族となる家族の年齢などで違ってきます。遺族基礎年金は一定年齢の「子」がいなければ受け取れませんし、厚生年金保険に加入していない自営業の方は、亡くなっても遺族に遺族厚生年金は支給されません。会社員であった妻が亡くなっても、「夫」は年齢要件を満たさなければ遺族厚生年金は受け取れません(夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給できます)。
どんな種類の遺族年金がどれくらい受け取れるのか、ひとつひとつ条件を確かめながら、万一のときに我が家で受け取れる遺族年金について確認しておきましょう。また、公的年金制度への加入状況が記載された「ねんきん定期便」が誕生月には届くはずなので、公的年金制度への加入歴や報酬額なども確かめておくとよいでしょう。