2019年4月に池袋で高齢者が運転する車が暴走し、多数の死傷者が出た事故は社会に大きな衝撃を与えました。内閣府の交通安全白書によれば、平成18年には約258万人だった75歳以上の高齢者ドライバーは10年間で513万人まで増え、令和3年には約613万人まで増えると予想されています。
こうした高齢者の事故を防止するために、高齢者の運転免許証の返納や車の自動運転化など様々な議論がなされていますが、自動車保険でも事故が起きた後の補償だけでなく、「なるべく事故を起こさないようにするための保険」が考えられています。
その一つが、運転の動作を把握して安全運転を促し、事故を減らすことを目指す「テレマティクス保険」です。今回はテレマティクス保険を高齢者の事故防止という観点から考えてみたいと思います。
テレマティクス保険とは
テレマティクス保険(以下テレマ保険)とは「テレコミュニケーション(通信)」と「インフォマティクス(情報工学)」を利用して走行距離や運転特性を取得分析し、その情報をもとに保険料を算定する自動車保険です。カーナビやドライブレコーダー、スマホのアプリ等を利用して運転の情報を収集、分析し、保険料やサービスに反映させます。
テレマ保険には走った距離に連動して保険料が変動する「PAYD型(実走距離連動型保険料方式)」と急ブレーキや急発進が少ないなど運転動作によって保険料が変動する「PHYD型(運転挙動反映型保険料方式)」の大きく2つがあります。
走行距離による事故率を反映させた自動車保険は以前より発売されていますが、運転挙動反映型のテレマ保険は、運転動作を保険料に反映させるデータを取得するための計測器の開発やデータの蓄積が必要であるため、個人ドライバーの保険としてすぐに発売することはできませんでした。
2015年にソニー損保が発売した「やさしい運転キャッシュバック型」は、専用のドライブカウンタを使って急発進、車間距離、急ブレーキを一定期間測定し、測定結果を自己申告することでキャッシュバックが受けられるPHYD型自動車保険です。しかし、ドライブカウンタは位置情報や速度、映像や音声の情報は取得せず、通信機能もありません。厳密にはテレマ保険というより、運転動作を保険料に反映したリスク細分化型の保険といったイメージでした。
同時期に国内大手損保4社(東海・三井住友・損保ジャパン・あいおいニッセイ同和)は、フリート契約(10台以上契約)や法人契約にドライブレコーダー(以下ドラレコ)を搭載することで、運転データを蓄積するテレマ保険のトライアルを開始しました。そして2019年は各社とも位置情報や映像・音声の情報も取得できる専用ドラレコで運転データを取得、分析し、安全運転のサポートや事故時の即時対応を行う、個人向けのテレマティクス保険を発売しています。
しかし、テレマティクスの技術を保険料に反映させた保険は、現在のところあいおいニッセイ同和損保の「タフ・つながるクルマの保険」のみ(※)となっており、他社は付帯サービスとして利用しています。損保ジャパンの「ドライビング!」は新規加入・増車の時のみ一定条件で安全運転割引がある保険となっています。
(※レクサス、トヨタのコネクティングカー限定。2020年1月にコネクティングカー以外も加入対象者となる「タフ・見守るクルマの保険プラス」が発売予定。安全運転スコアで最高8%の割引が受けられる。)
各社とも原則専用のドラレコを搭載し、危険な運転をした時などのアラート、運転診断レポート、運転情報を家族で共有することで、事故を予防する効果もねらった自動車保険となっています。
現在発売されている大手4社のテレマティクスを活用した保険の内容を以下の通り整理してみましたのでご覧ください。通信機能付き専用ドラレコ端末を搭載する特約を付けることで運転分析や即時事故受けを行うことができる保険となっています。
親の運転状況を把握できるテレマ保険
ドラレコやスマホ等を活用したテレマ保険は、普段の運転のくせからいち早く危険を察知し、自分や家族の安全運転に対する意識を高め、事故を予防する保険です。最近問題になっているあおり運転や、運転が未熟な若い世代の事故予防にも効果がありそうです。
また、あいおいニッセイ同和損保の「タフつながるクルマの保険」や三井住友海上の「GK 見守るクルマの保険」では、あらかじめ登録したご家族と、安全運転に関するレポートを共有、事故時には即時にメールで知らせるなどの見守りサービスが付帯されています。
さらに一方進んで、あいおいニッセイ同和損保の「タフ・見守る保険」では、配偶者や離れて暮らすお子さんなど最大5人をアラート等の送信先、事故時の連絡先として登録できます。たとえば、「高速道路逆走注意アラート」や「指定区域外走行アラート」など高齢の親御さんの運転に危険があればリアルタイムで家族に知らせてくれます。毎月の運転診断結果やアラートの発信状況などもレポートにして家族にも送ってくれるため、高齢ドライバーが自分の運転を客観的に見える化できるだけでなく、診断結果を家族で共有して安全運転について話し合うきっかけにもなるでしょう。
免許の返納を家族で考えるきっかけに
高齢ドライバーは、自分では運転に自信を持っていても、客観的には少しずつ認知機能が衰え、道路の逆走やアクセルとブレーキの踏み間違えなど、想定外の行動で事故を起こしてしまう危険があります。
MS&AD基礎研究所「高齢者運転事故と防止対策」の調査では、80歳以上の72%が「運転に自信あり」と回答し、58%が「運転免許の年齢上限制度に反対」と答えています。しかし、国交省の調査では75歳以上の免許保有者は全体の6%であるにもかかわらず、逆走した運転手は45%を占めています。自分では運転に自信を持っているが、客観的には判断力の低下から危険な運転につながっている事実がわかります。
しかし、「危険だから免許の返納を」と家族が思っても、地域によっては車がないと買い物や通院等日常生活が送れなくなる、高齢になって足腰が弱っているからこそ外出がままならず、車を手放す勇気がない、といった高齢者が多いのも事実です。家族が一方的に免許を返納させようとして、家族関係が悪くなっては元も子もありません。
いきなり免許を返納させるのではなく、まだ元気でしっかり運転できる時からテレマ保険で自分の運転状況を客観的に分析し、家族でその結果を共有しながら安全運転について考えてくのも一つの方法かもしれません。
そして、危険な運転の回数や逆走や道に迷うなど危ない運転が多くなってきたときには、家族で話し合い、本人も納得の上で「返納」を決断してもらいましょう。その決断にいきつくためにも、テレマ保険で心配する家族とつながり、見守っていく時間も大切ではないかと思います。
あいおいニッセイ同和損保:タフ・見守るクルマの保険プラス(ドラレコ型)
(最終更新日:2019.10.05)