これだけは知っておきたい! 法定相続人の範囲と相続の"落とし穴"

人が亡くなった時に預金や自宅など残された財産を誰にどう引き継ぐかは自由です。しかし、自由だからといって親族や知人が勝手に遺産を分けてしまったら争いごとになりかねません。こうした争いが起きた時には、あらかじめ民法が定めている法律上の相続人が遺産を相続します。民法上定められた相続人が法定相続人です。

相続が発生したら、銀行口座や自宅の名義変更を行う時、原則として法定相続人の署名と捺印がある遺産分割協議書を提出しなくてはなりません。相続発生後も速やかに日常生活が送れるよう、法定相続人の範囲と相続の基本的な知識について知っておきましょう。

法定相続人の範囲をおさえる

法定相続人は配偶者と血族相続人の大きく二つに分けられます。血族相続人とは血のつながりがある相続人のことです。配偶者とは内縁関係は含まれず、法律上の婚姻関係にある人で、配偶者は常に相続人となります。血のつながりがなくても養子縁組をした子は法定相続人となります。

下図でわかるように配偶者が亡くなっていれば第一順位、第二順位、第三順位の順番で相続財産を引き継ぎます。これに対し配偶者は子、親、兄弟姉妹すべてがいない場合を除き、常にだれかと相続財産を分け合うことになります。

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血族相続人の範囲は、第一順位は子で子が亡くなっていれば孫やひ孫となります。第二順位は直系尊属(親、祖父母、曽祖父母など)、第三順位は兄弟姉妹で兄弟姉妹が亡くなっていれば甥・姪までが法定相続人となります。孫やひ孫、甥・姪等は法律上代襲者と呼ばれます。遺産は第一順位、第一順位がいなければ第二順位、第一順位も第二順位もいなければ第三順位の順番で相続します。以下、もう少し詳しくみてみましょう。

第一順位…直系卑属(子及びその代襲者)

被相続人(亡くなった人)に子どもがいれば、子が第一順位の相続人となります。配偶者は常に相続人となりますので、配偶者と子どもがいれば配偶者が1/2、子が1/2ずつ財産を相続します。子が複数であれば1/2の財産を子どもの数で分け合います。たとえば配偶者と子ども2人が相続人であれば配偶者が1/2、子は1/4ずつを相続します。配偶者がいなければ子だけで財産を分けます。

子が先に亡くなっている場合は子の子である孫が相続します。これを代襲相続と言います。子も孫も亡くなっていてひ孫がいればひ孫が相続します。この関係を直系卑属と言いますが、下の世代がどこまで、という制限はありません。

また、胎児や非嫡出子も法律上の子となります。非嫡出子とは婚姻関係にない男女間の子ですが、父親から認知された場合や遺言書で認知が認められれば法定相続人となります。

第二順位…直系尊属(父母・祖父母)

亡くなった人(被相続人)に子や孫など直系卑属がおらず、父母や祖父母など直系尊属がいれば、父母、祖父母が相続人となります。相続の割合は配偶者がいれば配偶者が2/3、直系尊属が1/3となります。

第三順位…兄弟姉妹・甥姪まで

被相続人に子や孫などの直系卑属も直系尊属もいなければ、兄弟姉妹が相続人となります。相続の割合は配偶者がいれば配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4となります。兄弟姉妹が亡くなっていればその子である甥(おい)や姪(めい)が相続します。兄弟姉妹の代襲者は甥・姪までです。甥姪が亡くなっていてもその子に引き継がれることはありません。

子がない夫婦は必ず遺言書を!

遺言書は自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類が一般的ですが、将来にわたって家族に揉めごとがないようにしておくためには、公正証書遺言を作成しておくと安心

主な財産が自宅だけという場合、配偶者はほかの相続人に権利を主張されると自宅を売却してお金で分ける、ということにもなりかねません。配偶者が自宅に住み続けられるようにするためには遺言書を作成して配偶者を守ることも考えられます。しかし、遺言書があってもほかの相続人には遺留分という権利が残ります。

遺留分は遺言書などで法定相続分の財産を相続できなかった時でも、最低限保証される相続人の権利です。たとえば、「すべての財産を配偶者に相続させる」という遺言書があったとしても、子どもがいれば本来の法定相続分の1/2、つまり全体の財産の1/4を相続する権利が残ります。また父母、祖父母など直系尊属が相続人の場合は1/3の相続分の1/3で全体の相続財産の1/9の権利が残ります。

しかし、相続人が配偶者と兄弟姉妹だけの場合、兄弟姉妹に遺留分はありません。そのため、子がいない夫婦で父母はすでに亡くなっているが兄弟姉妹がいるという場合、「すべての財産を配偶者に相続させる」といった遺言書を残すことで、自宅を含めたすべての財産を配偶者に相続させることができます。

遺言書は自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類が一般的ですが、将来にわたって家族に揉めごとがないようにしておくためには、公正証書遺言を作成しておくと安心でしょう。公正証書遺言とは公証役場で公証人に作成してもらう遺言書で、相続が発生した時、相続人全員の合意がなくても遺言書の内容に従った相続手続きを行うことができます。

遺言書により相続権を侵害された人は、家庭裁判所に「遺留分減殺請求」の調停を申し立てることで、遺留分を相続することができます。また、遺留分は相続前に「遺留分の放棄」を家庭裁判所に申し立てて認められれば、放棄することもできます。

相続放棄は思わぬところにまで波紋が…

相続はプラスの財産だけでなく、債務などマイナスの財産も相続しなくてはなりません。マイナスの財産を引き継ぎたくない場合、被相続人の死亡を知った日から3か月以内に相続放棄の手続きをすることで、プラスの財産もマイナスの財産も相続しないという選択をすることができます。相続放棄の手続きをすれば放棄をした人は返済を免れますが、他の相続人が放棄した分の債務も相続しなくてはなりません。

たとえば、すでに配偶者が死亡している親の相続が発生し債務が残っていた場合、まずは第一順位の子が相続します。子が2人でそのうちの1人が相続放棄をすれば、もう一人の子がすべての債務を引き継ぐことになります。

また、第一順位の子が全員相続放棄をした場合、第二順位の父母が亡くなっていれば、第三順位の兄弟姉妹が債務を相続することになります。兄弟姉妹が亡くなっている場合はその子である甥・姪まで債務を相続しなくてはなりません。兄弟姉妹や甥・姪は子や父母など自分より先の順位の相続人が相続放棄したことを知った時から3ヶ月以内に相続放棄の手続きをしないと、債務を引き継がなくてはなりません。

債務は、亡くなった人が直接借りたものでなく、連帯保証人になっていた場合でもその地位を引き継がなくてはなりません。亡くなった人が生前、個人事業をやっていた・会社を経営していたという場合、事業や会社の債務の連帯保証人となっているかもしれません。

「自分の借金ではないから関係ない」と思って生前に債務の存在を伝えておかないと、死後思った以上に広範囲の人に相続放棄の手続きが必要になってしまいます。特に兄弟姉妹が高齢の場合、事態の把握や手続きを理解することも大変な状況になってしまいます。

相続に備えて準備しておきたいこと

家族が元気なうちに弁護士や司法書士といった法律の専門家やファイナンシャル・プランナーなどに相談しておくのも一つの方法

以上のように、法定相続人の範囲をわかっていないと、残された配偶者が自宅に住み続けられなくなったり、兄弟姉妹や甥・姪にまで相続放棄の手続きが必要という事態にもなりかねません。降って湧いたようなリスクから家族を守るためにも、家族が元気なうちに親族関係図を作って、法定相続人の範囲を確認しておきましょう。相続手続きに必要となる出生から現在までの戸籍謄本を生前に取り寄せて、親族関係を確認しておくことも有効です。

法定相続人の範囲を知っていることで、いらぬ心配をすることもなくなります。たとえば、親が存命のうちに不幸にして配偶者が亡くなった場合、子がいれば親の相続権はありません。ときどき、「親御さんに遺産を渡さなくてはいけないのではないか」と心配する相談がありますが、心情的な問題は別として、法律的には親御さんに遺産を分割する義務はありません。

いずれにしても、相続について分割や債務等に関わる不安があれば、素人判断は危険です。家族が元気なうちに弁護士や司法書士といった法律の専門家や、幅広い知識と専門家をつなぐネットワークを持つファイナンシャル・プランナーなどに相談しておくのも一つの方法でしょう。

(最終更新日:2019.10.05)
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