住宅購入の判断に大いに関係する住宅ローン。不動産や金融についてその業界の人に匹敵する知見をもつ、公認会計士ブロガー千日太郎さんに、連載形式で住宅を買う側・住宅ローンを借りる利用者側の視点で情報発信をしていただきます。
こんにちは、ブロガーの千日太郎です。
住宅ローンの基礎について話してというと、多くの専門家は「変動金利と固定金利があって…」とう説明になるのですが、それは銀行の商品説明であって本質ではないのです。
今回は、これから住宅ローンについて様々なお役立ち情報を発信していくうえで土台となる住宅ローンの基本についてお話します。
住宅ローンとは「毎月決まったお金を35年なら420回、借りた銀行に払うこと」
住宅ローンとは何か?と聞かれたら、私は「毎月決まったお金を35年なら420回、銀行に払うことだよ」と答えます。これが正確な定義でないことは百も承知ですが、住宅ローンで家を買う人にとっての本質です。
・420回のミッションをコンプリートすれば、家は自分のものになる。
・途中で返済出来なくなったら、家を取り上げられてしまう。
これが住宅ローンのルールです。
自分が420回ノーミスで出来ることって何でしょうか?縄跳びや年賀状の宛名書き…? どちらも早い段階で失敗しそうですね。つまり35年(420回)のミッションをやりきるには、1回1回のハードルは十分に低くしておく必要があるのです。
つまり、毎月の返済額が住宅ローンの一番重要な数字です。
無理なく完済できる住宅ローンの4つのルール
千日太郎は、本やブログで以下の4つのルールを当てはめて、無理なく返せる住宅ローンの金額を計算します。
【1】毎月の返済は手取り月収の4割以下でボーナス払いなし
【2】返済額が一定になる元利均等返済方式
【3】シミュレーションの金利は固定金利
【4】定年時のローン残高は1,000万円以下
4つのうち【1】から【3】は毎月返済額を決める要素です。つまり420回のミッションを確実にクリアするためのルールです。そして【4】の定年時のローン残高は、自分の老後を守るためのルールです。
【1】毎月の返済は手取り月収の4割以下でボーナス払いなし
現在の自分の収入で住宅ローンを継続できるか?という判断を行います。不動産の価格は何千万円という単位になりますから、住宅ローンの金額も何千万円という金額になりますね。
多くの人は、この金額を見てむやみに不安に駆られるのです。それは無理からぬことです。今まで経験のある「高価な買い物」とは1つ2つケタの違う金額だからです。その期間も35年という自分の物差しを超えた長さです。
・3,000万円の住宅ローンを35年で組む
しかしその金額はリアルな金額ではありません。私たちにとってリアルな数字は毎月の返済額なのです。例えば「3,000万円の住宅ローンを35年で組む」ということをよりリアルな数字に言い換えると次のようになります。
・毎月88,944円を420回払う(固定金利1.3%)
全く同じ内容ですが、これならより具体的にイメージできるのです。
今の家賃より幾ら多い(or少ない)のか?
家計からいくら捻出すればいいか?
幾ら貯金しておけば何ヶ月無収入でも耐えられるか?
銀行などの金融機関の審査で住宅ローン融資の審査で判断する要素に返済比率があります。返済比率とは、税込み年収に対する1年間の返済総額の割合を言います。
返済比率=1年間の返済総額÷額面年収×100
この割合は何か不測の出費があったときに、返済が滞る可能性が高いという経験則から導かれた割合で目安として30~40%以内としている銀行などの金融機関が一番多いです。しかし年収が高い人ほど、返済比率が高くても返済できますので、本当にギリギリのラインだと思ってください。
住宅ローンの支払いは月ごとですから、月収、それも手取り月収をベースに判断する方式がより実践的なのです。私は平均的な月収を前提として、毎月の返済額が毎月の手取り月収の4割以下にすることを推奨しています。
現時点の賃貸住宅の家賃を目安にしても良いです。この手取り月収の4割というラインは、人によっては少し厳しい場合もあります。全ての人に当てはまるものではなく、一つの目安として捉えてください。
【2】返済額が一定になる元利均等返済方式
元本と利息の返済方式には以下の2つの種類がありますが、千日は「元利均等返済方式」をお勧めしています。
元利均等返済方式:元本と利息込みで毎月の返済額を均等にする返済方式
元金均等返済方式:元本の返済は一定としてその利息を払う返済方式
元利均等返済方式は、毎月の返済額が一定になります。420回のハードルの高さは揃っている方が難易度は低いですよね。
一方で元利均等返済方式のデメリットとして、前半は毎月返済額のうちの多くが利息によって占められますので、前半は元本が減りにくく、利息の支払総額が多くなることを指摘する人もいます。
しかし、前半には住宅ローン減税が受けられます。住宅ローン減税は最初の10年間、ローン残高の1%を所得税等からキャッシュバックする減税制度ですから、前半の10年はローン残高が多い方が減税の恩恵を多く受けられるのですよ。
支払利息が多くなるという元利均等返済のデメリットは、住宅ローン減税があるうちは相殺されます。なので、毎月の返済額が一定になり返済計画が立てやすいメリットがある元利均等返済がお勧めです。
【3】シミュレーションの金利は固定金利
銀行や不動産会社の営業マンに住宅ローンのシミュレーションをしてもらうと『変動金利』でシミュレーションすることが多いです。なぜなら、通常は変動金利の方が固定金利よりも低金利なので、高い家が買え、沢山借りられるように錯覚するからです。
彼らにとっては一円でも高い家を買ってもらい、一円でも多く住宅ローンを借りてもらうほうが利益になるからですね。
しかし、変動金利には金利の上昇リスクがあり、そのリスクに対して自分のお金で対応しなければなりません。
金利が上がって毎月の返済が増えても返済を継続できますか?
又は、
金利が上がったらすぐに繰り上げ返済して元本を減らし、利息の負担を減らすことができますか?
これが出来ないなら、家を売って住宅ローンを完済することが妥当な選択となります。つまり420回のミッションを完遂できなかったということです。
変動金利は、完済できないことを「想定内」のこととして貯蓄を準備し、精神的にも覚悟するというメンタルが必要なのです
これに対して、固定金利ならば金利の上昇リスクに対して備える必要はありません。なので、まず初めに自分が幾らまで無理なく完済できるかをシミュレーションするなら、固定金利で計算することをお勧めします。
【4】定年時のローン残高は1,000万円以下
現時点で30代以上の人が35年ローンを組んだとしたら、完済予定年齢より先に60~65歳の定年退職を迎える人が多いです。ですから、定年時の残高が幾らになるか?というのは重要です。その金額を定年退職までに繰り上げ返済しないと、収入のある現役のうちに住宅ローンが終わらないからです。
一般的なサラリーマンの給料で1,000万円を貯めるというのは結構な年数が必要です。つまり、定年時の残高1,000万円を超えるというのは、危ないのです。
現役時代に稼ぐ給料を財源として住宅ローンを完済し、退職金はまるまる老後資金とする返済計画を立てるのです。
具体的には、住宅ローン減税の恩恵のある最初の10年で定年時の住宅ローン残高と同額の貯蓄を作ることを目標にしてください。
(参考:「最初の10年で住宅ローンの完済資金1,000万円を貯める方法を教えます|千日のブログ」)
これが達成できれば10年目の折り返し地点が、定年で住宅ローン完済のマイルストーンとなり、自信も付くのです。「あとは老後資金だな」と、次は老後のゆとりを目標にしていけるのですよ。
家と住宅ローンを決める二つの判断基準
家を買う、住宅ローンを決めるときには実に多くのことを考えます。沢山の要素があって頭がパンクしそうになるでしょう。そんな時に立ち返ってほしいのが次の2つの判断基準です。
1.「今の自分」の身の丈に合った家なのか?
2.「老後」を生きられる住宅ローンか?
正しい答えはいつも自分の中にあります。それを外に求めてはいけません。
「決められない私の背中を押してください!」
「当分金利は上がらないですよね?…ね!?」
こういう決め方をすると、後悔することになるのですよ。
1.「今の自分」の身の丈に合った家なのか?
4つのルールのうち最初の3つは、現時点の収入で払えるかを判断するものです。あくまで現時点の、です。今後の収入がどの位上がって行くのか? ということは範疇に入っていません。
つまり自分が買える家には現時点の収入と年齢によって限界があると思っています。でも…『自分にはもっと可能性がある。今の自分を基準に上限を決めてしまったら、そこまでだ』と言われたら、なかなか正面から否定することは難しいです。
確かに、自分の限界を決めるのは、良くも悪くも自分自身です。しかし、人の可能性はほとんど無限であると同時に、ちゃんと育てなければ無限のポテンシャルを発揮する前に挫折してしまうものです。自分の限界を超えるには、同時に自分の可能性には限界があることを知らなくては出来ません。
これから買おうとしている「家」とは何でしょう? 私は家にはハード面とソフト面の2つの面があって我々は同時にそれを所有しているのだと考えています。
ハード面:不動産として土地に定着した家屋
ソフト面:元は他人だった者同士が共同して次の世代を育む生活共同体としての家族
家を買う人ってほとんどの場合、そもそも既にソフト面の家を持っています。何でハードの家を買うのか?『家族のため』とかいろいろ言いますけど、ホントのところは自分のため、自分が欲しいからです。それで良いじゃないですか、それが本当の動機です。
大事なことはハード面の家を手に入れる代償として、ソフト面の家族を危険に晒(さら)さないようにする事です。ハード面の家が欲しいのは自分が欲しいからだとしても、それは自分を含む家族の存在無くしては意味の無いものだからです。
現時点の収入と定年までの残りの年数で買える家の値段を計算する事は、決して自分の可能性に限界を設定する事じゃありませんよ。これからの自分の可能性を最大化するために、どう自分を育てていけば良いかを冷静に見定め、無理のないプランを立てるのです。
まわり道のように見えるかもしれませんが、それが自分の可能性を最大化する戦略です。遠回りこそが最短の道なのです。低い山なら一気に駆け上がれますが、高い山でそれをやると命を落とすのと同じです。それはこれからの自分の可能性にしても、同じだと思います。
2.「老後」を生きられる住宅ローンか?
4つのルールの最後は、住宅ローンを無事完済したもののそれによって老後破産してしまわないようにするためのルールです。
これから住宅ローンを借りる人にとっては10年先、20年先、30年先の社会を生きるわけですが、どんな社会になっていても、今決めた借入の条件がそのまま適用され続けます。そして我々を待っているのは少子高齢化社会です。これは予測というより、既定の事実に近いです。
しかし、多くの人が家を購入する時に組む住宅ローンの計画には、それが反映されていないことが多いと思っています。過去の延長線上には無い、まだ誰も経験したことの無い社会だからです。
もちろん、全ての人が少子高齢化社会で収入を減らしてしまうわけではありません。当然に個人差はあるでしょう。しかし、明らかにこれまでとは変わる可能性が高い要素があります。
・旧定年の60歳からの5年間は年金が支給されず65歳からになる
・年金の支給開始は後ろ倒しになり受け取る年金は今よりも減少する
金融機関の審査基準は、まだこれらを織り込んではいません。なので、この住宅ローンを完済したとして老後を生きられるのか?については、他でもない自分自身で返済計画に織り込んで住宅ローンのシミュレーションを行う必要があるのです。
老後破産の当事者は、他でもない自分自身だからです。
私はこれからの少子高齢化社会にマイホームを買う人たちのコンパスとなる情報発信をライフワークとしています。千日太郎と出会ったあなたが、家の購入と住宅ローンの選択に正しい道筋を見つけ、ご家族と素敵な人生を歩まれることを祈っています。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。
(最終更新日:2021.02.17)