実家とは離れて暮らす核家族化をはじめ、結婚をしなかったり、子どもを持たなかったり、生き方の選択肢が増えることで、家族の在り方にも多様性がうまれています。そうした状況のなかで、お墓が遠くてお墓参りに行けない、お墓の管理をする人がいないという家庭も増えています。年々関心が高まっている「墓じまい」について、手続きの手順、注意点、墓じまい後の供養のスタイルなどを紹介します。
最近よく聞く「墓じまい」って、何?
お墓は、引き継ぐ人がいなくなり、管理ができなくなると、無縁墓となってしまいます。最終的にお墓は撤去処分され、中の遺骨は、同じような境遇の無縁仏と一緒に合祀墓に納められることになります。
墓じまいは、そうなる前の管理が行き届くうちに、お墓のその後を考えるために行うもの。今あるお墓を解体・撤去し、更地にして、お墓自体をお寺や霊園からなくすことをいいます。お墓を購入した際に得た永代使用権はお寺や墓地の管理者へ返還します。
その後は、お墓を今の住まいの近くに移したり、永代供養に改葬したりするなど、お墓の管理をしなくてよい方法で供養します。「墓じまい」は、今あるお墓との関係に一区切りをつけるために行うものなのです。
墓じまいをする方法
墓じまいをするには、「墓地、埋葬等に関する法律」で定められた手続きを行う必要があります。必要な書類も多く、撤去作業などには安くない費用がかかります。
墓じまいの手順
【1】墓地の管理者へ届け出る
お墓のある寺院や霊園の管理者へ、「墓じまい」を行うことを届けます。墓じまい後、同じお寺や霊園内の永代供養墓地へ移す場合は、手続きを教えてくれますので、それに従います。
別の場所へ移転する場合は、お墓がある市町村の役所で「改葬許可申請書」をもらい、お墓のある寺院や霊園の署名・捺印をもらいます。また、引っ越し先の寺院や霊園から「納骨許可証」をもらいます。
【2】改葬する場合:新しい墓地・墓石を準備
お墓を引っ越す場合は、事前に新しい墓地と墓石を事前に準備します。【1】で紹介したように、遺骨を引っ越す際に「納骨許可証」が必要になる場合もあるので、「ほかの墓地から改葬する」ことを届け出て、先にその手続きを済ませます。
【3】 改葬許可証をもらう
引っ越し先の寺院や霊園からもらった「納骨許可証」を現在の市町村の役所に提出して、「改葬許可証」をもらいます。
【4】 閉眼供養を行う
現在のお墓から遺骨を取り出す際に行う儀式、「閉眼供養」を行います。実際の作業としては、墓石を動かして遺骨を取り出すことになるので、石材店に依頼するのが一般的です。ただし、寺院や霊園が指定する業者しか選べない場合、トラブルの元になることもあるので、注意が必要です。
【5】 離檀
寺院の敷地内にお墓があった場合、その檀家だった可能性があります。墓じまいをしてお墓を引っ越す場合は、寺院の檀家から離れることになるので、離檀料を払います。これは法律的な決まりなどではありませんが、これまでお世話になったことを考えれば、ある程度のお布施は経費として考えるべきでしょう。事前に、その地域の相場を確認しておくことも大切です。寺院によっては、離檀料を指定してくることもありますが、あまりに法外な金額を請求された場合には、弁護士などに相談するようにします。
【6】お墓を解体・撤去し、更地にする工事
お墓の敷地は、通常は寺院や霊園から借用しているものになります。墓じまいをする際には、すべて撤去し、更地にして返還するのが通例です。撤去作業は、通常、石材店が行います。費用は、墓地の広さや墓石の大きさ、石の量、作業の方法によって変わります。場所によっては、すべて手作業で行うなど日数や人手が必要になることもあります。概算にはなりますが、事前に見積もりを取ることができますので、見積もりを取って確認するのがおすすめです。
【7】移転先での納骨、法要
お墓の引っ越し先が遠方の場合、お骨は自分で運ぶだけでなく、ゆうパックを利用することも可能です。骨壺用の梱包資材も販売されていますし、品名に骨壺と明記できるのも安心です。
お骨の移送後は、新しい墓地に納骨します。この際も法要を行いますので、費用が発生します。
以上が墓じまいと、それにまつわる一般的な手続きです。
墓じまいを行うときの注意点
墓じまいを行う場合には、いろいろな注意点があります。
まず第一に、一人で決めないことです。お墓に入っているのは両親だけという場合で自分が一人っ子なら、相談のしようもありませんが、兄弟がいる、あるいは両親以外の親戚も入っているお墓の場合は、必ず相談しましょう。普段はあまりに気にかけていないように見えても、ご先祖様のいるお墓が心の拠り所となっている場合も多々あります。相談してそのようなことがわかったら、お互いの責任の範囲を明確にすることもできますので、まずは相談してから進めるようにしましょう。
同様に、これまでお墓があった寺院にも、いきなり墓じまいする旨を伝えるのではなく、まずは相談という形でお話をするのがおすすめです。費用もかかりますから、相場やその寺院の考え方なども聞きながら計画を立てていくようにしましょう。
お墓は、掘るまでわからないお骨が入っている可能性もあります。また、古いご遺体の場合、火葬されていないこともあります。土葬された遺体の骨は、一度火葬しなければなりません。その場合は、さらに予定外の時間と費用がかかります。墓じまいは計画から実行、引っ越し先での納骨まで、時間的にも費用の面でも余裕を持って用意しておく必要があります。
墓じまい後の供養の方法は?
お墓の管理ができないことが理由で墓じまいを行う場合、その後の選択も悩むところです。最近は、永代供養もさまざまなスタイルが登場しています。
永代供養
永代供養は、お墓の継承者がいない人のために寺院などが永代にわたって、管理・供養するお墓のこと。オーソドックスなものは、菩提寺で行うものと考えがちですが、公営墓地への改葬合祀も一般的です。費用は、最初にかかるだけ。その後は、一切かからないため、子どもがいない人も安心です。また、永代供養の場所へお墓参りもできます。
ただし、合祀は、複数の遺骨を一緒に埋葬するもの。ですから、一度埋葬してしまうと、改葬はできません。永代供養でも納骨堂や屋内墓地などは、個別に遺骨を納めるタイプ、半分だけ小さな骨壺に納めて、残りはほかのご遺骨と一緒に納めるタイプなど、さまざまあるので、納められる場所なども確認して、決めるのがおすすめです。
散骨
近年人気になったのが、散骨です。これは、火葬した個人の焼骨をさらに粉末状にしたのち、海や空、山中などにそのまままく埋葬法です。遺骨を手放すことができ、費用も最初に払って終了になります。手元に残るものが何もないので、残された人の心の拠り所として、わずかな骨を残す場合もあります。
樹木葬
お墓の管理をする人を必要としない、永代供養の新しい形が樹木葬です。これは、暮石の代わりに、樹木をシンボルとするもの。1本の樹木の周りに遺骨を埋葬したり、ガーデン風に芝生や草花を敷き詰めた場所に埋葬するものもあります。必要なのは、遺骨を埋葬するための小さなスペースだけなので、費用も安く抑えられます。
墓じまいは、費用も時間もかかる大仕事です。元気なうちに家族で話し合っておくことで、お互いに後悔のない供養の方法が選べるのかもしれません。
(最終更新日:2019.10.05)