埼玉県は待機児童数が急増する県のひとつです。待機児童0に向けた取り組みが各地で進むなか、なぜ埼玉県では待機児童が増えてしまっているのでしょうか? 市区町村別の待機児童数一覧や、市の取り組みなどから、埼玉県で待機児童が減らない理由を探ります。
埼玉で待機児童数記録が急増中?! その原因は?
埼玉県は人口第5位で、東京へのアクセスも良いことから現在も人口が増加している県のひとつです。移住先としても検討されることの多い埼玉ですが、子育てと仕事の両立は可能なのでしょうか?待機児童数のデータから埼玉の現状を考察していきます。
埼玉の待機児童数は増加の傾向
埼玉県の過去5年の待機児童数推移は下記のとおりです。
2016年に一度減少したものの、2017年以降は200人以上待機児童数が増え続けています。なお、埼玉県の発表では「待機児童の旧定義による算出ならば、待機児童数が減少している 」と記されています。これはどういうことなのでしょうか?
2017年、厚生労働省によって発表された新しい待機児童の定義では、主な変更点として「育休中だが預かり先が決定次第復職を希望する」状態の場合も待機児童として認めることが挙げられています。それ以前は、保護者が育児休暇を取得できているのであれば待機児童にはカウントされませんでした。
つまり埼玉では、復職を希望しているものの、子どもの預かり先が見つからないために子育てに専念している保護者が多いということが予想されます。
1歳児の待機児童割合が63.8%
待機児童の年齢は、平成30年4月の時点で下記のような内訳となっています。
待機児童の年齢と人数構成比(2018年4月)
この表からわかるように、1歳児の待機児童が全体の過半数を占める点が埼玉の待機児童の特徴です。また、先ほどの定義の違いによる待機児童数の変化と併せて考えれば、出産を機に育児休暇を取得したものの、出産後預ける先が見つからず育児休暇延長をした母親が多いことが予想できます。
育児休業取得や求職活動休止が少ないことも待機児童増加の原因か
埼玉の保育サービス受け入れ枠の拡大は続いていますが、それでも待機児童数が減少しない理由のひとつは保護者の育休や求職活動の状況によるものかもしれません。
下記は入所を希望しているが入所していない児童の理由の内訳を表わし、前年度と比較したものです。
保育所等に入所を希望しているが入所していない理由と人数(2017年、2018年)
上記の理由に該当する者は待機児童に当てはまらないものとしてカウントから差し引かれますが、2017年と比較して2018年は「育児休業中」の保護者や「求職活動を休止している」保護者が減少したことがわかります。一方で、特定の保育所のみ申し込む人が多くなっています。
これは、出産後復職までのスパンを短く捉えている人が多いことや、0歳~2歳までの年齢の子どもを預けるサービスや、勤務地からのアクセスを鑑みたサービスを限定して申し込んだ人が多く存在することを示唆する結果です。
埼玉市区町村別待機児童数ランキング
では、埼玉県内の市区町村の待機児童数を見ていくと、どのような傾向がわかるのでしょうか?
待機児童数No.1はさいたま市
下記は待機児童数順に並べた上位10位までの市区町村です。
市区町村別待機児童数(平成30年4月)
2位の朝霞市の約3倍もの人数で、大きな差をつけて1位になっているのはさいたま市です。さいたま市は人口順で見たときにもトップとなっており、埼玉県の人口が一極集中する市であると言えるでしょう。一方、2位以降の市区町村を見ると、待機児童数と人口には相関性が見られません。
区市町村別人口数(平成31年2月)
朝霞市や三郷市、新座市は人口における待機児童数が多いという見方もできるかもしれません。
県内での待機児童数の差と路線との関連性
こうした埼玉県内では、行田市や秩父市、本庄市など待機児童0を実現している市や町は26カ所あり、待機児童数に大きな差が出ていることがわかります。なぜ同県内でここまで大きな差があるのでしょうか?
待機児童数の多いエリアとして上位のさいたま市、朝霞市、三郷市の共通点を探してみると、それぞれ複数の路線や大型道路の通過点である特徴があります。さいたま市は京浜東北線や高崎線を利用できる大宮駅を中心に武蔵野線を利用できる浦和周辺エリアが含まれ、東北自動車道や首都高速埼玉大宮線も通っています。また、朝霞市も東武東上線と武蔵野線、三郷市もつくばエクスプレス線と武蔵野線が利用可能です。
こうした傾向から、県内他駅へのアクセスと東京へのアクセス、双方が可能な道路や路線を有するエリアには子育てをする世帯が集中している可能性があります。
待機児童数が少なく育てやすいエリアは?
では、アクセスの良さと待機児童数の少なさ双方が叶うエリアはあるのでしょうか。例えば、県内で東京に近い市のひとつである草加市は、待機児童数19人と少ない状況です。東京に行くために利用できる路線が東武伊勢崎線のみとなっているため、通勤ラッシュの混雑度合いは厳しくなりますが、一方で周辺に自動車でアクセスしやすい大型ショッピングモール等も充実しているため、生活しやすい特徴があります。
こうした観点で見ていくと、ふじみ野市(待機児童数5人、東武東上線利用可)や所沢市(待機児童数19人、西武池袋線利用可)は現実的な検討ができそうです。
さいたま市に待機児童が増えてしまうのはなぜ?
待機児童数が少なく、東京へのアクセスも可能なエリアが他にもあるにも関わらず、さいたま市で待機児童が増えてしまうのはなぜなのでしょうか。その理由を、さいたま市の特徴から考察してみましょう。
0歳~中学卒業まで医療費負担等、子育てへの手厚いケア
さいたま市はいくつか子育てに関わる魅力的な制度を設けていますが、その中でも家庭に大きな影響を与える制度が「子育て支援医療費助成制度 」です。これは、子ども(0歳から中学校卒業前まで)の医療費の一部負担金を助成するというもので、簡易な登録申請を経て利用することが可能です。子育ての負担となる医療費を軽減することを目的とした本制度は高い評価を得ており、子育て世帯がさいたま市を選ぶ理由として挙げることも珍しくありません。
その他に、電動アシスト付き3人乗り自転車とヘルメットをレンタルする制度 など、住民のニーズに密着した独自の取り組みが多く、市の制度を活用することで子育てがスムーズになることが人気の理由のようです。
多様な働き方を実現するための市の取り組みが積極的
子育てだけでなく、働き方に対する柔軟性も高いのがさいたま市の特徴です。さいたま市にある企業に対して「多様な働き方実践企業認定制度」を設け、男性社員の子育て支援に積極的な企業や、時短制度などを取り入れる企業をランク分けし、可視化する取り組みを進めています。
こうした市の取り組みは、子育てをしながら仕事を両立しようと試みる人の数を増やすことにつながっているでしょうし、同時に子どもを預かってほしいニーズを高めている側面もあるのでしょう。
育てやすさを重視する埼玉、預けやすさの向上が今後の課題
埼玉県にはさいたま市に人口、待機児童が一極集中する特徴と、東京へのアクセスが良いエリアに待機児童が増えやすい傾向があることがわかりました。また、その背景には、市の子育てに対する手厚い取り組みや、働きやすさや復職しやすさなどへの改善などがあります。
住民が子どもを育てながら働くことを実現させるためには、0~2歳児を預けられる場所の充実が求められます。今後、入所申込数に見合う形で改革が進むことを期待しましょう。