古着屋やライブハウス、劇場などが多くひしめき合う街・下北沢。さまざまなカルチャーの発信地として人気を集め、最近では外国人観光客の姿も多く見られます。また、小田急線と京王井の頭線が交差しており、アクセスの良さも魅力のひとつといえるでしょう。
現在は再開発が進み、「下北沢の玄関口」として知られていた「南口」も廃止され、下北沢駅の改良工事が長らく続いています。2019年3月16日には、新しい改札口「小田急中央口」「京王中央口」が新設されました。これにより、小田急線と京王井の頭線が別々の改札口となるため、利用客にとっては大きな変化が生まれるでしょう。この改良工事によって、下北沢駅はどのように使いやすくなるのか、そして下北沢の街はどのように変わっていくのでしょうか。
小田急線の地下化と複々線化事業
小田急線と京王井の頭線の駅舎・改札の分離工事に先立って行われたのが、小田急線の地下化です。これには、「連続立体交差事業」と小田急電鉄の「複々線化事業」という二つの側面があります。
下北沢駅では元々、小田急線は地上を通っていました。下北沢周辺の踏切は「開かずの踏切」と呼ばれ、ラッシュ時は1時間のうち40分も開かないことがあったそう。この問題を解決するために、小田急線を地下に移して地上の踏切を撤去するというのが「連続立体交差事業」。この事業により「開かずの踏切」問題、および下北沢周辺の道路混雑が緩和しました。今後は、空いたスペースを活用して駅前広場やロータリーなどを整備する「再開発事業」により、交通の利便性を向上することを目指します。
そして、同時並行で小田急電鉄が取り組んだのが、小田急線の「複々線化事業」。上下線各1本だったもの(複線)を地下1階に2本(各駅停車の上下線)、地下2階に2本(急行の上下線)とホームを分けて線路を4本にする(複々線)というもの。複々線化によって、各駅停車は急行や準急の通過待ちや待ち合わせがなくなり、急行・準急も前を走る電車に影響されなくなりました。2018年3月には、複々線化による新ダイヤも組まれ、都心へのアクセスにかかる時間も減少。小田急線の地下化により、地上2階を走る京王井の頭線との乗り換えに時間がかかるようになったという声もありますが、かねてより問題視されていた小田急線のラッシュ時の混雑は、これにより緩和されていきました。
「小田急線」と「井の頭線」はどちらも「小田急電鉄」の路線だった
2013年に「複々線化事業」が完成し、次に始まったのが「小田急線と京王井の頭線の改札分離」。そもそもなぜ、下北沢では「小田急線」と「京王井の頭線」が同じ改札を共有しているのでしょうか。その理由は、この2路線が元々は同じ「小田急電鉄」だったことに関係しています。
井の頭線は帝都電鉄という会社の路線として開業され、その後、小田急電鉄(当時は小田原急行鉄道)と合併しました。ところが、戦時中の経営統合によってさまざまな鉄道会社が合併していくなか、小田急電鉄も大東急(戦時統制下の東京急行電鉄)と合併。戦後になって、各鉄道会社が独立する中で、井の頭線は京王帝都電鉄(現・京王電鉄)の路線に組み込まれたのです。
そういった背景から、両路線が交わる下北沢駅では、小田急線と京王井の頭線の改札が分離されていなかったのです。
改札の分離によって変わること
小田急線と京王井の頭線の改札が分離すると、乗り換えの際に改札を一度出る必要が生じます。利用者の視点から考えると、改札を出ずに乗り換え可能なこれまでの形の方が便利といえるでしょう。
一方で、乗り間違える心配がなくなるという声も。小田急電鉄のリリースを見てみると、「東西方向の自由通路機能が確保され、街の回遊性が向上するとともに、改札口が別になることで、乗り間違いがなくなるなど、わかりやすく使いやすい駅に変わります」とあるように、より使いやすい駅の導線になることが分かります。
下北沢在住で日頃から下北沢駅を利用する筆者からすると、小田急線と京王井の頭線の乗り換えは分かりやすく、乗り間違いが起こるという感覚があまり分かりません。しかし、頻繁に下北沢を利用していない人からすると、「別々の路線なのに改札が分かれてない」という現在の下北沢駅の構造が分かりにくいという気持ちも理解できます。実際、「乗り換えできているのか不安になる」という声もありました。そう考えると、今回の改札の分離は本来あるべき状態にするための改良工事と言えるでしょう。
現在の下北沢駅の構造では、小田急線ユーザーと京王井の頭線ユーザーは必ずどこかで交錯してしまいます。事実、小田急線と京王井の頭線の合流地点はとても混雑しており、うまく接続できているとは言えないのが現状。このあたりの混乱は、改札が分離し、「小田急中央口」「京王中央口」が新設されることで解決が見込めそうです。
今後、シモキタはどう変わっていくのか
下北沢駅の改良工事によって変わるのは、小田急線と京王井の頭線の分離だけにとどまりません。今回の改良工事によって、新駅舎の2階部分に下北沢の東西を結ぶ通り抜け可能な通路が作られます。この通路により、下北沢の東西の行き来が自由となり、改札を通ることなく、「南西口」付近から「中央口」付近へと移動が可能。井の頭線へのアクセスもしやすくなります。下北沢を頻繁に利用する人々にとって、これは大きなニュースとなるでしょう。いままで駅によって分断されていた下北沢が駅を基点に移動がしやすくなることで、今後の人の流れは大きく変わっていくはずです。
かつての玄関口だった南口の消滅により、不便になったと言われる下北沢駅でしたが、2018年に新設された東口は旧南口のすぐ近く。南西口の存在があるため、分かりにくいとは思いますが、従来の南口の役割は東口が果たしているため、実は出口の利便性はそこまで変わっていないというのが個人的見解です。
新駅舎の2階部分には商業施設が入るなど、これからますます活気づくことが予想される下北沢。もちろん、利便性が向上する裏で犠牲となっているものもあるでしょう。たとえば、かつての「下北沢らしさ」が損なわれていくという意見も少なくありません。昔ながらのお店や景観が消えていき、チェーン店や利便性が良くスマートな街の景観になっていくことへの寂しさは筆者にもあります。
駅としての利便性や街としての暮らしやすさが向上すると。駅の利用客も増加し、下北沢を歩く人の層も変化するかもしれません。しかし、日に日に姿を変えていく下北沢を見ていると、これからこの街がどう変わっていくのか楽しみな気持ちもどこかにあります。下北沢という街の何が変わって、何が残るのか、見つめていきたいところです。
(最終更新日:2019.10.05)