賃貸住宅の「界壁(かいへき)」について、マスコミによる連日の報道をきっかけに、注目が集まっています。隣住戸との間を仕切る界壁にはどのような役割があり、なぜ必要なのか、どのように施工されているべきなのか見ていきましょう。
そもそも、界壁とは?
界壁とは、マンションやアパート、団地といった「共同住宅」や、テラスハウスなど「長屋住宅」の住戸間を区切る壁のこと。建築基準法第30条には「長屋又は共同住宅の各戸の界壁は、小屋裏又は天井裏に達するものとするほか、その構造を遮音性能(隣接する住戸からの日常生活に伴い生ずる音を衛生上支障がないように低減するために界壁に必要とされる性能をいう)に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものとしなければならない」と明記されています。
また、建築基準法施行令第114条第1項にも「長屋又は共同住宅の各戸の界壁は、準耐火構造とし、小屋裏又は天井裏に達せしめなければならない」とあります。つまり、界壁は小屋裏や天井裏部分まで立ち上げる必要があるということです。
界壁の役割は? 界壁がないとどうなるの?
所有者や利用者が異なる住戸を仕切る「界壁」は、遮音性能や防火性能が求められます。
前述の建築基準法第30条は遮音性能に関する記載で、建築基準法施行令第114条第1項は防火性能の規定です。
遮音性能
建築基準法施行令第22条の3(遮音性能に関する技術的基準)より、以下の遮音性能が求められています。例えば、隣の住戸でピアノを演奏する音が80デシベル、自分の家まで漏れ聞こえてくる音が30デシベルの場合、透過損失は50デシベルです。透過損失が大きいほど遮音性能が高いということになります。
求められる遮音性能(界壁等による透過損失)
振動数(単位 ヘルツ) | 透過損失(単位 デシベル) |
125 | 25 |
500 | 40 |
2,000 | 50 |
壁や天井が薄く遮音性能が低ければ、隣人の話し声や足音、テレビの音、洗濯機や掃除機の音などの生活音が漏れやすく、騒音問題に発展するリスクがあることは、想像に難くないでしょう。
防火性能
界壁の施工が不十分な場合、集合住宅のどこかで火災が発生した際に燃え広がるリスクがあります。そのために、石膏ボードを貼る、グラスウールやロックウールを充填するといった対応が求められています。延焼を防ぐことができれば火災の被害を最小限に抑え、燃え広がる前に避難することもできるでしょう。
うちの界壁は大丈夫? チェックする方法はあるの?
もし、自分が住んでいる家の屋根裏などに界壁がない、もしくは足りない場合、騒音問題や延焼のリスクが生じる恐れがあります。入居、もしくは購入する前に、界壁が入っているか調べる方法はないのでしょうか?
通常、界壁の状態は建築確認申請時に図面で確認し、建築基準法に基づいて行われる完了検査時には工事写真を見て、界壁の位置や構造、材料などをチェックします。完成後は、点検口がなければ目視でチェックすることは難しいでしょう。きちんと施工されているか気になる人は、建築段階で施工会社に依頼し、写真を撮ってもらうようにしましょう。
建築基準法が改正され、界壁の基準は緩和される見込み
2018年6月27日、「建築基準法の一部を改正する法律(平成30年法律第37号)」が公布されました。その中には建築基準法第30条も含まれています。国土交通大臣が定めた構造方法を用いるなどして遮音性能や防火性能を満たすことができれば、界壁は必ずしも小屋裏まで到達している必要がなくなる見込みです(公布日から1年以内に施行)。具体的には、下記の通り発表されています。
長屋又は共同住宅の各戸の界壁については、現行基準では、(イ)準耐火構造とし、かつ、(ロ)小屋裏又は天井裏に達するようにすることとされているところであるが、学校等の防火上主要な間仕切壁(令第 114 条第2項)の例に倣い、その代替措置として、
・ 令第 112 条第2項に規定する自動スプリンクラー設備等設置部分
・ 防火上支障がないものとして国土交通大臣が定める部分
については上記(イ)及び(ロ)のいずれも不要とし、
・ 天井の全部が強化天井である階(階全体を強化天井)
・ 階の一部を準耐火構造の壁等で区画し、その部分の天井が強化天井である部分(区画部分を強化天井)については上記(ロ)を不要とする。
※出典:建築基準法の一部を改正する法律の施行に伴う建築基準法施行令の改正に向けた検討案(総則・単体規定関係)について(概要)
まとめ
小屋裏または天井裏部分の界壁に施工不備がある住宅は、耐火性能が低下している可能性があります。また、生活音が隣戸に伝わりやすくなっている可能性も否定できません。
界壁の施工状態は目で見て確かめることが難しく、ましてや、小屋裏または屋根裏まで界壁が届いていなくても十分な遮音性能や防火性能が得られるのか、素人が判断することは難しいでしょう。
万が一不備が見つかれば、補修工事が必要になります。工事期間中は一時的な引っ越しが必要になるため、入居者にとって大きな負担です。そうした事態を避けるのはとても難しいことでしょう。
しかし、「競合物件と比べて格段に入居費用が安い」「購入時に提示された価格が破格」といった魅力的な条件を提示されてもすぐに飛びつかないこと、「建築費用を極限まで削っていないか」「無理なスケジュールで施工していないか」など疑いの目を持つことはできます。不動産会社や施工会社任せにせず、疑問があれば確認することを忘れずに家探しを行うことが大切です。