モノを「所有」するより「利用」することに焦点を当てているのが「サブスクリプション」というサービスです。音楽やパソコンソフト、アプリなどの形のないものについては、すでにさまざまなサービスが私たちの生活のなかに入り込んできています。一方で、服や靴など、形のあるもののサブスクリプションも登場し始めました。そんななか、トヨタ自動車がクルマのサブスクリプションサービスを2019年から始めると発表。この状況に、私たちのくらしはどう変化していくのでしょうか?
クルマのサブスクリプションとは、どんなサービス?
定期的に利用するものに対して定額料金を支払うサービス、それがサブスプリクションです。インターネットを介して配信されるパソコン用のソフトなど、無形のサービスとは親和性が高く、多くの人に受け入れられてきています。
このサブスプリクションが、私たちの生活に密着している様々な「有形物」にも関わろうとしています。
注目は、トヨタ自動車が2018年11月に発表したクルマのサブスプリクションサービスです。日本の大手メーカーでは初めての参入宣言で、世界中から注目されました。
クルマを利用するという点においては、すでにリースやシェアリングといった似たサービスが存在します。リースは、自分のクルマとして所有することになります。税金や点検費などを含んで、基本的に毎月定額の支払いでクルマを持つことができます。
シェアリングは、事業者が所有しているクルマを複数の人と共有するのが一般的で、使った分だけの料金がかかります。しかし、予約状況によっては自分の好きなときに使えない場合もあります。また、クルマを保管するステーションが近くにないと、やや不便になるともいえます。
サブスクリプションは、リースに近いサービスです。自分のクルマとして所有しますが、その期間がリースより短いとされています。リースの期間は3年、または車検ごとだったりしますが、サブスクリプションはより短い期間で好きなクルマに乗り換えられるのが特徴です。
もちろん、税金や法廷点検も料金に含まれ、所有していた時には気になった「下取り」という概念もなくなります。
クルマのサブスクリプションのポイントをまとめてみると
- 好きなクルマに短期間で乗り換えることができる。
- 税金や保険などの諸経費込みの料金である
- 車両のメンテナンスをしてもらえる
となります。
短期間で乗り換えられる最大のメリットとしては、普段はセダン、夏のキャンプシーズンや冬のスノースポーツシーズンにはSUVにチェンジ、家族構成が変わったのでミニバンに切り替えるなど、生活スタイルに応じて気軽に選べることです。より積極的に、クルマを「使う」ことができるようになります。
すでにサービスを開始している「NOREL(ノレル)」
クルマのサブスクリプションは、中古車買取販売のガリバーを運営するIDOM Inc. が始めた新サービス「NOREL(ノレル)」が先行しています。新車と中古車のプランがあり、新車はBMW、MINIから選べるのが特徴です。
新車で最も低価格な「バリュアブルプラン」は月額79,800円(税抜き)でMINIやBMW2シリーズから選ぶことができます。契約期間は走行距離が5,000kmに達するか、10ヶ月まで。契約期間が過ぎると、次のクルマに乗り換えることになります。継続して利用する際には、利用料の割引サービスもあります。
クルマのランクによってプランの料金も変わってきます。最も高い「ラグジュアリープラン」はX5やX6を選ぶことができて、月額200,000円(税抜き)です。
しかし、改造したり、窓にスモークを貼ったりといったクルマのドレスアップなどはできません。
中古車を選ぶプランは月額59,800円(税抜き)からですが、有償の保険(月額15,000円〜)に加入する必要があります。中古のプランは最短90日で乗り換えが可能ですが、同じ車に長く乗ると割引サービスがあります。
料金的にやや割高感があるとの意見も見られますが、常に違う車に乗りたいと考えている人には、いいサービスといえるでしょう。
ついにトヨタもサブスクリプションサービスに参入
トヨタが発表した「KINTO(キント)」は、必要なときにすぐに現れてくれる「筋斗雲(きんとうん)」から名付けられました。どんな車種が選べるのか、料金など具体的な内容はまだ明らかになっていませんが、好きなクルマを自由に選んで気軽に楽しめるサービスを目指して準備が進んでいます。さらに、インターネットなどを通して安全運転やエコ運転の度合いなどをポイント化し、ユーザーに還元するプログラムも展開予定とのことです。
自動車評論家の小沢コージさんに、車のサブスクリプションについてお話をうかがいました。
「実は、クルマを所有するときにコストが最もかかるのが、新車を購入した直後です。車両価格の他、消費税、重量税、自賠責保険料、任意保険料などなどがかかります。そこが一番コストのかかる瞬間でありながら、クルマ自体の市場価値は大きく下がってしまう。
「サブスクリプションについて、このようなイニシャルコストがかからないでいろんなクルマに短期で乗り換えられるという点は、お得ではないでしょうか。ただ、そのクルマを気に入って長く乗りたい、という場合には、普通に購入したほうがトータルコストは低く抑えられると思います。」
「私はクルマの維持費というのは感覚的なものだと考えています。実際にかかっている毎月の維持コストを、明確に数字で把握している人は多くはないでしょう。しかしクルマを維持するということは毎月の保険代と駐車場代、ガソリン代だけではなく、車両本体価格を所有期間で割って、重量税などのコストも日割りすることになります。しかし、そこまで考えている人はやはり少ない。だから、感覚的に『安い』と思ってもらえる価格帯でサービスを提供できるかどうかが、クルマのサブスクリプションが普及するポイントといえます。」
「今後、自動運転やカーシェアがもっと普及すると、サブスクリプションというサービスの立ち位置も変わってきて、そこから本当のメリットが出てくると考えられます。今回、トヨタならではの利用しやすいサービスが提供されることを期待しています」
トヨタはクルマを売るだけでなく、「モビリティサービス」を提供する会社になると宣言しています。つまり、「移動」することについて総合的にサービスを行うということ。インターネットとつながることや自動運転が実現することなどで、自動車を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。そんな中で、メーカーであるトヨタも大きく変わっていこうとしているということでしょう。
トヨタという日本を、いや世界を代表するメーカー自身がサブスクリプションサービスに参入するということは、とても大きな意味を持つといえます。
今後、他のメーカーやさらには他の業界もサブスクリプションを導入するきっかけになる可能性があるサービスではないでしょうか?
(最終更新日:2019.10.05)