消費税10%時代、到来。対策は“キャッシュレス” 最新事情をレポート

2019年10月に消費税を10%にアップする方針を政府が表明しました。2度に渡って延期された税率アップですが、私たち一般消費者はどのように対応していくのがベストでしょうか? その対処法のヒントはキャッシュレスにアリそうです。最新事情をレポートします。

消費税対策はキャッシュレスでの“ポイント還元”

現在、考えうる消費税対策のうち、もっとも有効とされているのがクレジットカードによる「キャッシュレス化」です。カードでキャッシュレス決済を行うことで、増税分を、あるいはそれを上回るポイントで還元を行うことが検討されています。実はここに政府の目論見があります。

経済産業省の調査『キャッシュレス・ビジョン』(平成30年4月)によれば、日本のキャッシュレス決済の比率は18.4%。お隣の韓国では89.1%、中国、カナダ、イギリス、オーストラリアなどは60〜50%という普及率に比べて、極めて低いことがわかります。

画像は『キャッシュレス・ビジョン』(平成30年4月)P11より引用。各国のキャッシュレス決済比率の状況(2015年)
出典:世界銀行「Household final consumption expenditure(2015年)」及びBIS「Redbook Statistics(2015年)」の非現金手段による年間決済金額から算出
※中国に関してはBetter Than Cash Allianceのレポートによる参考値

政府が、消費税アップ分をポイントでのみ還元しようとしているのは、これを機会にキャッシュレス化の流れを推し進めようとしています。また、人材不足を抱える小売業もキャッシュレス化の取り組みが始まっています。

消費増税の対策としては得になりそうですが、果たして本当に便利なのでしょうか。その現場を取材しました。

お客さまの利便性を考えて行き着いた、完全キャッシュレス店舗

カスミ筑波大学店

お客さまの利便性を追求した末の完全キャッシュレス店舗。筑波大学キャンパス内にオープンしたスーパーマーケット「カスミ筑波大学店」(茨城県つくば市)

まず訪れたのは茨城県つくば市にあるスーパーマーケットのカスミ。2018年10月1日に完全キャッシュレス化の店舗として筑波大学店をオープンさせました。同店にとってキャッシュレス店舗第1号店です。

「キャッシュレス化は、お客さまの利便性を追求した結果です。レジ待ちを少しでも短くしたいと思っていて、支払いに時間のかからないキャッシュレス化が有効だという結論に達しました。どこかで実験するなら、若いお客さまが多いところがいいだろうという判断でした」(店長の箱田直美さん)

有人レジとセルフレジ(無人)では、人の動線が変わってきます。セルフレジの使い方がわからない客や、レジが空いているのに気付かない客が出てくることも想定されます。レジは9台設置されていますが、常駐するアテンダント(店員)は基本的に1名です。

「すでにオープンしていたセルフレジ店舗でのお客さまと店員の動きをチェックして、セルフ&セルフ&キャッシュレスになったときのシミュレーションを行いました。レジメーカーとも協議を重ねてオペレーションを改善していきました」(箱田さん)

9台のレジに対してアテンダントは原則1名。空いたレジへの誘導や操作に困っているお客への対応に当たります。レジの上にあるランプだけでなく、モニターでも各レジの状況を確認しています。

また、オープンしてみると想定外のこともあったといいます。同店は完全セルフレジを想定してつくったものではなく、出入り口の構造やレジの配置については、改善の余地があるようです。

「そこは、アテンダント(店員)の立つ位置や対応でカバーしています。レジの上に3色のランプを付けて、お客さまの状況がひと目で分かるようにしました。緑が点滅していれば精算がスタートした合図、15秒経つと黄色の点滅に変わるので次のお客さまをご案内する準備をする、という流れです。3色すべて点滅すれば、お客さまが店員を呼び出している合図にもなります」(箱田さん)

店の入口には完全キャッシュレスだということを告知する看板を設置。キャッシュレスで決済する方法がない客向けに、チャージ済みのWAONカードをその場で販売していました。

完全キャッシュレスにもとまどいはなし

店頭には『No Cash!当店はキャッシュレス決済店舗です』との看板があります。現金が一切使えないことに対する客のとまどいというのはなかったのでしょうか?

「お客さまには、思ったよりも抵抗なく受け入れていただけたと思っています。チャージ済みのWAONカードを販売しましたが、最初の数週間で3,000枚ほどご購入いただきました。当店を利用するのをきっかけとして、キャッシュレス化に一歩踏み出されたお客さまもいたと思います。また、筑波大学では、学生に向けて『筑波大学カード』の入会をすすめていたので、大きな抵抗のない方も多かったと思います」(箱田さん)

オープンから3ヶ月経過して、最初にWAONカードを購入した客のポイントが貯まってくる頃で、ポイントの使い方を告知していく準備を進めているとのこと。

キャッシュレス化によって、決済のスピード化だけでないメリットもあったといいます。

「筑波大学店では紙のチラシを一切廃止して、セール情報はSNSを活用しています。実は、チラシに載っている日替わりセールというのは、チラシ自体のコストの他に、店頭での商品の入れ替えなどの手間がかかります。それをなくすことで、毎日の商品価格を安くしようと試みています」(箱田さん)

キャッシュレス化によって人件費を抑え、その分、他店に比べて商品を低価格で提供、消費者に還元もできるそうです。

「お客さまからの反応も、安いから利用しているという声をたくさんいただいています」(箱田さん)

LINEなどのSNSを積極的に活用して、できるだけコストをかけずに告知。お客さまの利便性を高める施策を実践しています。

SNSなどの利用で、さらなる利便性を

また紙のチラシの代わりに、SNSなどを使ってセール情報を配信。たとえば、店頭では毎日「本日の来店コード」を発表していて、これをLINE経由で入力すると専用コインを貯めることができ、一定数に達するとお菓子などと交換できるというノベルティを行なっています。できるだけコストをかけず、それでいて利用者のメリットになるような仕組みを考えていいました。

「現在対応しているのは、KASUMIカード、WAONカードの他、VISA、MASTER、AMERICAN EXPRESSなどの各種カードですが、今後は交通系カードやQRコード決済などにも対応していきたいと考えています」(箱田さん)

キャッシュレス化に加えてペーパーレス化などの工夫を加えることでコストダウンが図れることで、消費者側の利便性が上がる可能性があるといういい例といえるでしょう。

JRの無人売店はAI&Suicaで支払い

JR赤羽駅 AI無人店舗の実証実験

JR赤羽駅ホームで実証実験されるのは、無人の駅売店。まずは、入り口でSuicaをかざして店に入ります。棚から自由に商品を取って出口に向かうと、レジのディスプレイには商品の合計金額が表示されて、さらにSuicaをかざすと支払いが完了する、という仕組みです。システムにはAI技術が用いられていて、天井に設置されたカメラでどの客がどの商品を手に取ったかを認識しています。まだまだ実験段階ですが、入店から決済までに10秒という大幅なスピードアップを目指しているとのことです。

人手不足を解消し、使う人の利便性もアップさせる施策として、AI活用&無人店舗の実証実験が行われました。

完全キャッシュレス店舗は訪日外国人が多い浅草から

完全キャッシュレス店舗「大江戸てんや」

訪日外国人客が9割を占める「天丼てんや浅草雷門店」が、完全キャッシュレスのセルフタイプ型店舗「大江戸てんや」にリニューアル。注文は、店の入口にある4か国語(英語、中国語、韓国語、日本語)に対応する多言語タブレットで行います。支払いは各種クレジットカードや電子マネーのほか、中国のモバイル決済「アリペイ」や「ウィチャットペイ」にも対応しています。

さらに通常の天丼てんやと違うのは、セルフサービスという点。支払い時に発行される番号を呼ばれたら自分で受け取り口まで取りに行き、食べたあとは自分で食器を下げるシステムです。訪日外国人のニーズに対応し、IT化によって店舗業務の効率化も図っていく試みです。

他の天丼てんやの店舗とは違い、より訪日外国人にアピールする外観になっています。店舗入口でタブレットから注文、キャッシュレスで支払いするシステム

キャッシュレス化に対しては、いまだに抵抗のある人が多いという調査結果も見られます。しかし、世界のキャッシュレス化の流れは止めることはできません。しかも、来る消費増税時には、キャッシュレス決済を行うことで大きなメリットを得られそうです。

利便性も見逃せません。「現金を使わない」という側面だけでなく、支払いがスムーズになったり、企業側からのサービスが受けやすくなったりしていくと期待されています。また先行する諸外国では強盗などの犯罪が極端に減ったというケースもあります。セキュリティがきちんと担保されれば、今後一気に普及していくはず。私たち消費者にとっては、利便性や安全性のさらなる向上によるキャッシュレス化の流れを歓迎していきたいですね。

(最終更新日:2019.10.05)
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