植物の中にある芳香成分や樹脂を、高濃度で抽出したエッセンシャルオイルを使ってマッサージなどを行うアロマテラピーは、ヨーロッパでは古くから代替医療として利用されてきました。日本でも香りによる癒しの効果が注目され、アロマディフューザーを利用する人も増えているようです。
しかし、最近は「アロマディフューザーを使ったら、ペットの小鳥が死んだ」、「猫の具合が悪くなった」というケースも耳にすることも…。実際のところはどうなのか、ペットとアロマの関係を調べてみました。
香りによって引き起こされる症状とは
「植物から抽出されたエッセンシャルオイルは、天然だから安全」と思われがちですが、天然でもリスクはあると指摘する研究者もいます。イギリスの研究では、エッセンシャルオイルでアロマテラピーを受けた患者のなかで、皮膚炎や湿疹、呼吸困難、嘔吐、意識障害などの体調不良を起こした症例が71例あったと報告されています(※1)。もっとも訴えが多かったのは、ラベンダー、ペパーミント、ティーツリー、イランイランなどでした。
アメリカでは、シャンプーやスプレーなど、ノミを避けるために植物から抽出されたエッセンシャルオイル製品を使った犬と猫(合計48匹)の症例を調べ、約90%に有害な副作用が起きたことがわかりました。主な症状は、中枢神経系や消化器、呼吸器の異常などでした。
なかには、製品ラベルにある指示通りに使ったのに重い症状が出て、安楽死させたケースもあります(※2)。解剖や毒性検査は行われなかったので、製品に合成化学物質や不純物が混ざっていた可能性もありますが、これらの製品は慎重に使い、何かあった時にはすぐに獣医師に相談しましょう。
動物に関する研究はまだ少ないようですが、人間よりも体が小さく、香りに敏感な動物がいる場合は、特に注意したほうがよさそうです。
アメリカでは香りが原因で裁判になったケースも
エッセンシャルオイルは主にマッサージなどで皮膚に塗ることが多いですが、アロマディフューザーや香水など、空気中に広まった香りを吸った場合は、どうなるのでしょうか。
このような「空気中の香り」をめぐる問題で有名なのが、アメリカで起きた裁判です(※3)。
2010年、アメリカのデトロイト市では、化学物質過敏症を発症した市の職員が、新しく入ってきた同僚の香水とコンセント式の消臭剤によって呼吸が苦しくなりました。同僚に伝えると、消臭剤はやめてくれたのですが、香水は使い続けました。そこでこの職員は上司にも相談したのですが、何も対応してくれませんでした。そこで、この職員はデトロイト市を提訴し、裁判所は職員の訴えを認めました。この裁判以降、デトロイト市はすべての職員に対して、あらゆる香料製品を身につけるのを自粛するよう呼びかけています。
どんな香り成分がどのような影響を与えるのか、まだ明らかになっていない部分も多いようですが、子どもやペットがいる場所でエッセンシャルオイルや香料製品を使うのは避けたほうがよさそうです。どうしても使いたい場合は、枕やハンカチに数的垂らすなど、部分的な使用に抑え,少しでも異変があったらすぐに中止しましょう。
また、化学物質過敏症の人は微量の香料で体調を崩し、ぜん息の人は香料がぜん息発作の引き金になることもあるそうです(※4)。妊娠して香りに敏感になる人もいますから、大勢の人が集まる場所では、特に香りに配慮したほうがよいかもしれません。
【参考文献】
※1 Posadzki et al. International journal of Risk & Safety in Medicine(2012)24:147 -161
※2 Genovese et al.Journal of Veterinary Emergency & Critical Care(2012:22(4):470- 475
※3 United States District Court Eastern District of Michigan Southern Division, C A#2:07-CV.12794,Settlement agreement and full and complete release of liability.
※4 水城まさみ、 IRYO(2015)69(3):117-126/Flegel et al. CMAJ(2015)187(16):1187