日本学生支援機構の調査(平成28年)によると、大学生(昼間部)の奨学金利用率は48.9%、およそ2人に1人が奨学金を利用している状況です。奨学金は通常、社会人になり働きながら返済するものなので、奨学金を返済中に住宅ローンを利用したいと考える方も多いでしょう。では、奨学金の利用は、住宅ローンの借り入れにどの程度影響するのでしょうか?
奨学金を返済中でも、支払い能力があれば住宅ローンを利用できる!
住宅ローンを借り入れする際に金融機関が最も重視することは「安定した収入があり、貸したお金をきちんと返してくれるか?」です。
ですから、たとえ奨学金を返済していても、安定した収入があり奨学金も住宅ローンも問題なく返済できるのであれば、もちろん住宅ローンは利用することができます。
ただし、奨学金もフリーローンや自動車ローンなどと同様に借金であるため、奨学金の返済額も含めて返済能力を審査されるので注意が必要です。
【シミュレーション例】
年齢 | 年収 | 奨学金借り入れ状況 | |
夫 | 38歳 | 500万円 | 現在、奨学金を年間24万円返済中 |
妻 | 38歳 | 100万円 | - |
子ども | 4歳と1歳 |
【住宅ローン借り入れ条件】 | |
借入期間 | 30年 |
商品 | 【フラット35】 |
金利 | 1.35%(融資率9割以下) |
返済方法 | 元利均等返済 |
ボーナス返済 | なし |
総返済比率(【フラット35】) | 35%以内(年収400万円以上) |
借入期間30年の借入額100万円あたりの月返済額:3,379円 |
年収500万円×総返済負担率35%:175万円(年間) |
住宅ローンのみの返済可能額:175万円−24万円=151万円(年間) |
上記のケースで考えると、「奨学金の年間返済額+住宅ローンの年間返済額」が年収の35%以内に収まっている必要があるので、住宅ローンの借入可能額は、151万円÷12ヶ月÷3,379円×100万円=約3,700万円(十万円未満切捨)となります。
もちろん、これはあくまで、審査上の借入基準を基にした借入可能額であり、仮に3,700万円を借りてしまうと、夫の年収の35%が住宅ローンと奨学金の返済に消えてしまうわけです。今後の子どもの教育費や住宅を取得した後の税金など今後増える負担も踏まえて、返済後の残りの金額でゆとりをある生活が送れるかどうかもチェックしておきましょう。
奨学金は借金の一種なので申告漏れや滞納は要注意
奨学金も住宅ローンの審査対象となる「他の借り入れ」にあたるため、住宅ローンの借り入れ時には申告が必要です。
また、銀行は、住宅ローンの審査にあたり、全国銀行個人信用情報センター(KSC)、シー・アイ・シー(CIC)、日本信用情報機構(JICC)という3つの個人信用情報機関で個人信用情報を調べますが、過去に延滞(3ヶ月以上)や滞納したことがある場合には、個人信用情報に記録が残っており(※)、結果的に住宅ローンの借り入れができなかったり、希望する金額が借り入れできなかったりするケースもあるので注意しましょう。
この個人信用情報は、返済完了の5年後に削除されますが、もし過去、延滞してしまって個人信用情報に記録が残っているか心配という場合には、事前に自分の個人信用情報を照会しておけば安心ですね。もちろん、借入の契約者が親である場合や、返還不要の奨学金等であれば、本人の借り入れにはあたりませんので、住宅ローンの審査において影響はありません。
※平成21年4月以降奨学金の貸与を受ける際に「同意書」の提出が義務付けられ、奨学金の返還を延滞した場合に、個人信用情報機関に個人情報が登録されることになりました。
妻が奨学金を返済していると、住宅ローン審査に影響はあるの?
結論から言いますと、妻が奨学金を返済していても「夫が単独でローンを契約して返済する」のであれば影響はありません。ただし、妻が収入合算者になって連帯保証人や連帯債務者になるケースでは、奨学金の返済額も審査の対象となるため、全体の借入金額に影響がでる可能性はあります。
そして、もし妻が奨学金の返済を延滞や滞納をしている場合、収入合算者になれないことはもちろん、住宅ローンの借り入れができないこともあるので注意が必要です。
住宅購入を見据えて、奨学金の返済と住宅購入の頭金積立はどちらを優先すべき?
家計に少し余裕がでた場合、奨学金の繰り上げ返済をして「今ある借金」を早く減らすか、住宅購入の頭金として積み立てて、住宅ローンの金額、つまり「将来の借金」を減らすか、どちらを優先すべきか悩む、という人もいるかもしれません。
日本学生支援機構の第二種奨学金(利息つき)は繰り上げ返済をすることで、返済期間を短縮できるだけでなく、支払利息を減らすことができ、特に奨学金の残額が多い場合には、非常に大きい利息軽減効果が期待できます。
第一種の場合には無利息なので利息軽減の効果はありませんが、繰り上げて返済することで早く返済が終わります。ちなみに、2004年以前に「第一種(無利子)の奨学金を借りた人」は「最終返還期日の4年前までに返還残額を一括返済した」場合に最後の引き落とし額のうち繰り上げ返済に当たる金額の3%?5%が報奨金としてキャッシュバックされる制度がありますし、保証人をつけられずに機関保証を活用しているケースでは繰り上げ返済をすることで、保証料の一部が返金される場合もあるので、該当する場合には、さらに繰上返済のメリットが期待できます。
また、奨学金の繰り上げ返済をして、今ある借金を返済してからの方が、住宅取得の資金・返済計画も立てやすいので、特に残額が多いケースでは、まず、早めに奨学金の繰り上げ返済をすることをおすすめします。
ただ、繰り上げ返済した結果、住宅取得に回す手元資金が減り、住宅ローンの金額が増えることでかえってトータルの利息負担が増えてしまっては本末転倒ですので、完済した時点の貯蓄や家計に合わせた住宅取得の資金計画を考えることを忘れずに!
なお、現状の住宅ローン金利よりも低い水準の金利で奨学金を利用しており、返済開始から時間が経過して残額が少ないケースでは、繰り上げ返済をしても利息軽減効果はあまり期待できません。その場合には、通常の返済を続けつつ、家計の余裕部分は住宅取得の頭金の積み立てに回して住宅ローンの借入額を減らす、という考え方もあるでしょう。
まとめ
自分や配偶者が奨学金を利用していても、延滞や滞納履歴がなければ住宅ローン審査に支障がでることはありません。ただし、奨学金は自動車ローンなどと同様に借金です。奨学金の返済額も含めて総返済比率とされるので、希望する金額が借り入れできない可能性がある点には注意しましょう。
また、奨学金の返済と住宅ローンの返済で家計が苦しいので、「自分の子どもの大学費用は奨学金を利用する」というのでは、結果的に子どもに将来の借金を背負わせてしまうことになります。目先の支出だけでなく、ライフプランの変化による支出の変化も踏まえて余裕のある住宅取得を心掛けたいものですね。
(最終更新日:2019.10.09)