Q. 2018年度の税制改正で、給与収入が「850万円超」の人は増税になるって聞きました。どのような仕組みに変わるのでしょうか?(40代/男性)
自民、公明両党の税制調査会長が、2018年度の税制改正で焦点となっている所得税改革について、給与所得控除を一律10万円引き下げると同時に、控除額の上限も現行の「年収1,000万円超で220万円」から「年収850万円超で195万円」に引き下げることで合意しました。
順当に決まれば、2020年1月から新制度が実施されます。この改正で私たちの収入にはどのような影響があるのでしょうか?
そもそも給与所得控除ってどんなもの?
まず「給与所得控除」とは何かということから見ていきましょう。例えば、自営業者の場合には事業をする際に、モノを仕入れたり、事務所の賃料を支払ったり経費が掛かった費用は収入から引いて所得を計算することができますが、給与所得者にはそのような明確な経費はありません。
ただ、給与所得者もスーツを買うなど色々経費がかかるでしょう、ということで一定の金額が必要経費として認められています。これが給与所得控除です。現在の税制では、給与所得控除は最低65万円から年収に応じて増えていき、年収1,000万円を超えると220万円で頭打ちとなるようになっています。
【現在の給与所得控除】
給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除 |
180万円以下 | 収入金額×40%、65万円に満たない場合には65万円 |
1,80万円超360万円以下 | 収入金額×30%+18万円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+54万円 |
660万0,000円超1,000万円以下 | 収入金額×10%+120万円 |
1,000万円超 | 220万円(上限) |
今回の改正案では、この給与所得控除を「年収1,000万円超で220万円」から「年収850万円超で195万円」に引き下げることでおおむね合意しました。そして、同時に給与所得控除額を一律10万円引き下げることが決まりました。
【新制度での給与所得控除】
給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除 |
162万5,000円以下 | 55万円 |
162万5,000円超180万円以下 | 収入金額×40%-10万円 |
180万円超360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円(上限) |
基礎控除は一律10万円引き上げ!
この改正案では、給与所得控除額を引き下げる一方で、基礎控除を引き上げるとしています。
基礎控除というのは、自営業者でも給与所得者でも誰でも一律公平に差し引かれる所得控除のことで、現行制度では金額は誰でも38万円で特に特別な手続きをする必要もなく当然に差し引かれる控除額です。
この基礎控除が38万円から10万円引き上げられて48万円となる予定なので、結果、年収850万円以下の給与所得者は、給与所得控除額の縮小額と基礎控除の増加額が同額となり、増税とはならない仕組みが取られています。さらに、高所得者への控除は縮小し、年収2,400万円から段階的に減らし、年収2,500万円を超えればゼロとする方針です。
なお、子育てや介護に対して配慮する観点から、同一世帯内に23歳未満の扶養親族又は特別障害者控除の対象となる扶養親族等がいる者について、負担増を生じさせない措置がとられます。
【新しい基礎控除額】
合計所得金額 | 基礎控除額( )内は地方税 |
2,400万円以下 | 38万円(33万円)⇒ 48万円(43万円) |
2,400万円超2,450万円以下 | 38万円(33万円)⇒ 32万円(29万円) |
2,450万円超2,500万円以下 | 38万円(33万円)⇒ 16万円(15万円) |
2,500万円超 | 控除なし |
つまり、今回の改正で最も影響を受けるのは、年収850万円超の給与所得者であり、一方で自営業者にとっては減税というわけです。
今回の改正の背景は?
近年、働き方が多様化しています。会社員などと同じような仕事、働き方をしているにもかかわらず給与所得控除が使えない個人請負などの労働者と、当然に給与所得控除を使える会社員との税負担での不公平感をなくし、所得格差を是正したいというのがひとつの背景にあるようです。
ただ、単純に給与所得控除だけを減らすと給与所得者のみが増税となってしまい、そもそもの目的である所得格差是正も実現しないので、収入が低い層には増税にならないようにしつつ、高所得層には増税となるように見直す案が検討され、その結果、給与所得控除を減らしながら、基礎控除を増やす案が出された、というわけです。
増税額はどの程度?
では、実際にどの程度の人がどのくらいの増税となるのでしょうか?
2017年12月時点で決まった内容で考えると、給与所得者の場合、年収850万円以下では変わりなく、年収850万円超で増税となります。財務省の試算(12月12日時点)によると、年収900万円で年間1万5,000円、年収950万円で年間3万円、1,000万円の人では年間4万5,000円、年収1,500万円では年間6万5,000円、年収3,000万円なら31万円ほどの負担増になる可能性があります。
【年収毎の増税額一覧】
年収 | 増税額 |
850万円 | 変わらない |
900万円 | 年間1万5,000円 |
950万円 | 年間3万円 |
1,000万円 | 年間4万5,000円 |
1,500万円 | 年間6万5,000円 |
2,000万円 | 年間6万5,000円 |
3,000万円 | 年間31万円 |
増税対象者は、年収850万円超の会社員は約430万人のうち、子育てをしている約190万人と、介護をしている約10万人を除く約230万人となる見込みです。これは、給与所得者の4%程度に当たり、当初は、多くの人が減税対象となるのではと見られていましたが、実質、多くの人にとっては、あまり変わらない内容になります。なお、高齢者では年金以外の所得が1,000万円を超える20万人と年金収入が1,000万円を超える3,000人が増税対象となる見込みとのことです。
一方で、フリーランスや自営業者などいわゆる個人事業主に当たる人は、基礎控除が10万円増えるため減税となります。
なお、基礎控除10万円引上げ、給与所得控除10万円引下げに伴い、それぞれ金額等を踏まえて設定されている税制上 金額基準等に必要な調整が行われます。その結果、配偶者や親族が給与所得者場合、下記所得控除を受けるため 所得制限額に影響ありません。
増税となってがっかりする人、今回の改正の対象とはならずにホッと安心している人、減税となって喜んでいる人、さまざまかと思いますが、確実に世の中は全体としては増税傾向に向かっています。2018年からは「配偶者控除」と「配偶者特別控除」の見直し、タバコ増税、2019年10年には消費税10%、2020年には第三のビールやワイン税の増税、2024年からは森林環境税(仮称)と軒並み増税が予定されています。同じ水準の生活をした場合でも、税金や社会保険料が増加するとその分家計は苦しくなるので、早めに家計の見直しや節税効果の期待できる積立制度を活用するなど、しっかり対策を立てておきたいものですね。
(最終更新日:2019.10.05)