住宅ローンを組むとき、定年年齢よりあとに返済期間を設定した会社員の方は、定年時にローンが残っていたら、「退職金で一括返済しよう」と考えでいるのではないでしょうか。住宅ローンの返済に退職金を使うと、場合によっては、その他のライフイベントの実現に大きな影響を及ぼす場合があるため、注意が必要です。
30代、40代の人が住宅ローンの返済期間を最長の35年にするワケ
住宅ローンの返済期間は最長35年(完済は一般的に80歳)まで設定することができます。30代や40代の時に35年返済で借り入れをした方は、定年後の65歳以降に返済を終えることになります。
多くの会社の定年は60歳で、そのあと60代前半も引き続き働くことはできますが、“再雇用”になると収入は大きく減ります。65歳以降に受け取る公的年金の額も、その中から住宅ローンの返済ができるほど十分ではありません。60歳以降の家計はかなり逼迫することが予想されます。そんな事態に陥る可能性があることを借りる前にわかっていながら、それでも35年返済にする方がいるのはなぜでしょうか。
近年は晩婚化が進んだことから、マイホームの取得を考える年齢が以前よりも遅くなっていることが前提にありますが、次のようなことも考えられます。
毎月の住宅ローン返済額を抑えたいから
利息の負担が軽くなることはわかっていても、返済期間を短くすると、毎月の返済額が増えてしまいます。
下の例でみると、毎月返済額は25年返済より35年返済のほうが、約3万円低くなります。将来かかる子どもの教育費などのことを考えると、住宅ローンの毎月返済額は低く抑え、家計にゆとりを持たせたい気持ちもわかります。毎月の返済額が高いと、その後のやりくりがたいへんになる恐れがあります。
<条件>35歳、借入金額:3,000万円、金利:1.5%固定、元利均等返済方式、ボーナス返済なし
返済期間 | 毎月返済額 | 支払利息総額 |
25年返済 | 11万9,980円 | 599万4,148円 |
35年返済 | 9万1,855円 | 857万9,007円 |
途中で繰上返済をすれば返済期間が短縮でき、支払利息も軽減できるから
返済期間が長くでも、貯蓄ができれば、それを原資に繰上返済をして返済期間を短縮することができ、同時に支払利息も軽減できます。
ちなみに、上の「35年返済」の例で、5年間返済した後に、100万円の繰上返済をした場合(期間短縮型繰上返済)、返済期間を1年4ヶ月短くできます。支払う利息額も約52万円軽減できます。やりくりを工夫して貯蓄に励み、何度も繰上返済をすれば、長期返済のデメリットを減殺することができます。
借り換えをする場合の返済期間を、当初の返済残期間以内に設定する必要があるから
住宅ローンの借り換えをする場合、一般的に借り換え先の住宅ローンの返済期間は、借り換え元の住宅ローンの返済残期間を超える設定をすることができません。
たとえば、A銀行から25年返済で住宅ローンを借り、10年間返済したところでB銀行の住宅ローンに借り換える場合、B銀行の住宅ローンの返済期間は、15年(25年-10年)以内にする必要があります。
つまり、最初に短い返済期間にすると、他の銀行のローンに借り換えをするときもその影響を受けるのです。やりくりがたいへんだからといって、借り換え時に返済期間を延長することは一般的にできません。
定年時の退職金でローン残高を一括で返済するつもりだから
最長35年もの長期返済にする理由はいろいろとあるものの、会社員の場合、最終的には定年時の退職金で、そのときローン残高があれば一括返済しようと考えているのではないでしょうか。60歳で一括返済ができれば、その後の再雇用で収入が少なくなっても、65歳から受け取る公的年金が十分な額でなくても、ローンの返済負担を背負う必要はありません。
しかしそれは、退職金の金額がローン残高よりも多い場合のみです。
逆に、退職金の金額がローン残高より少ない場合は、老後の家計破綻の原因になるかもしれません。
退職金の額を確認する! 定年時のローン残高を確認する!
住宅ローンの完済年齢が定年年齢を超えている方にまず確認してほしいことは、自分の定年時の退職金の額がいくらかということ、そして、そのときのローン残高がいくらかということです。
会社には退職金規定や企業年金の規約などがあるはずです。社内にはモデル社員の退職金額、企業年金の金額の試算結果があるでしょう。人事部など担当部門に問い合わせて確認してみてください。退職金や企業年金は、会社によってまちまちなため、統計数値などはあてになりません。自分の会社でいくらなのかを確認する必要があります。
中途で入社した方は、新卒入社の人のモデル退職金よりも少ないはずです。今後定年まで勤めた場合にどれくらいの退職金の額になるかの確認が必要です。
住宅ローンの定年時の残高確認について、全期間固定金利タイプの住宅ローンを借りた場合は、金融機関から受け取った全期間の「償還表」を確認すればわかります。しかし、変動金利タイプで借りた場合は、半年ごとに「償還表」が送られてくるため、確認することはできません。借りた金融機関に条件を指定して問い合わせるか、条件を入力すれば毎回の返済額とローン残高を一覧表に表示するインターネットサイトなどで確認するとよいでしょう。
【60歳時の住宅ローン残高の試算例】
<条件>金利:1.5%固定、借入期間:35年、元利均等返済方式、ボーナス返済なし
借入時の年齢 | 借入金額 | 60歳時のローン残高 |
35歳 | 2,000万円 | 682万0,037円 |
3,000万円 | 1,022万9,783円 | |
4,000万円 | 1,363万9,896円 | |
5,000万円 | 1,704万9,648円 | |
40歳 | 2,000万円 | 986万5,204円 |
3,000万円 | 1,479万7,595円 | |
4,000万円 | 1,973万0,270円 | |
5,000万円 | 2,466万2,662円 |
退職金の額>定年時のローン残高の場合
退職金を使って住宅ローンを完済することができます。しかし、それだけ老後資金として使える額が少なくなることに注意が必要です。定年時に子どもがまだ大学などに通っていて、退職金を教育資金として使わなければならない場合は、ますます夫婦の老後資金が少なくなります。
退職金の額<定年時のローン残高の場合
退職金全額を使っても住宅ローンを完済することができません。貯蓄を取り崩す必要があります。あるいは、世帯収入を増やして返済を続けなければなりません。場合によっては老後の家計破綻の原因になるかもしれません。
早く対策を講じることがポイント
退職金の額とローン残高を確認して比較したあとは、早めに対策を講じることが重要です。いずれの場合も、早めに繰上返済を行って、返済期間の短縮と支払い利息の軽減を図ることです。繰上返済は早ければ早いほど効果が大きくなります。少額からでも確実に効果が上がります。
家計を見直して、ムダをできるだけ削減し、計画的に貯蓄を増やして繰上返済の原資にする必要があります。理想は、定年までに完済すること。そして、退職金は夫婦の老後資金として100%使えるようにすることです。
今後は、公的年金の支給額が少なくなる見込みだと言われています。また、ますます長生きになるとも予想されています。住宅ローンの返済の仕方も、将来を見通して工夫するようにしましょう。
(最終更新日:2019.10.05)