民間金融機関の住宅ローンを借りるには、団体信用生命保険(団信)への加入が必要です。団信に加入するためには、健康状態についての審査がありますが、たとえば健康診断で軽度の異常が見つかった場合など、その事実を告知する必要はあるのでしょうか。また、告知した場合、団信への加入はできないのでしょうか。団信加入の審査における告知内容と加入の可否がどう判断されるのか見ていきましょう。
団信に入れないと住宅ローンは借りられない?
「住宅ローンを借りてマイホームを購入するタイミングは、保険の見直しのタイミングでもある」
これは、ファイナンシャル・プランナーのようなお金の専門家がよく口にする言葉です。なぜマイホームを購入するタイミングが、保険の見直しのタイミングでもあるのかといえば、それは、住宅ローンを借りるとセットで団体信用生命保険に加入するケースが多いからです。
団信は、加入者が住宅ローンの返済中に死亡した場合や、高度障害状態に陥った場合に、保険金で住宅ローンが完済される保険です。ローンがなくなった状態で家が残されることとなり、住宅費が保障されるため、すでに加入している生命保険の死亡保障額を減額できるケースがあるのです。
金融機関の立場としても、融資をしたお客さまに万が一のことがあった場合、貸したお金が返ってこなくなったら困るので団信への加入を求めています。団信への加入は必須といってもいい状態で、健康状態に不安があって団信へ加入できない場合、民間金融機関の住宅ローンを借りることはできないといっていいでしょう。
団信の審査に健康診断は必要?
申込者の健康状態が重視される団信ですが、審査にあたって健康診断を受診する必要はあるのでしょうか。
団信の審査に健康診断は不要
結論からいうと、団信の審査であらためて健康診断を受ける必要はありません。また、審査の過程において、自分で医療機関を受診したり、過去の健康診断結果を提出したりする必要も基本的にないのです。
最近受けた会社の健康診断で再検査項目があったとしても、過去や現時点において大きな病気を患っている事実がなければ、住宅ローンの審査には影響しないと考えていいでしょう。
団信の審査では告知書の提出が必要
団信の審査では健康診断を受診する必要がないといっても、生命保険の加入審査である以上、健康状態がチェックされることに変わりはありません。審査にあたっては「告知書」という書面の提出が求められます。
告知書には健康状態についての質問がいくつか記されており、申込者が「はい/いいえ」を選択する形式で自身の健康状態を回答します。通常、過去の健康診断結果や医師の診断書を添付する義務はないので、告知書はあくまでも健康状態を自己申告するためのものです。
ただし、あとで詳しく紹介しますが、自己申告だからといって事実と異なる記載をすると「告知義務違反」に当たるため、事実を偽りなく回答しましょう。
健康診断書の提出が必要なときもある
団信は申込者本人が記入した告知書をもとに健康状態を審査するのが基本ですが、ケースによっては健康診断書の提出が求められることもあります。健康診断書の提出が必要となる要件は金融機関や保険会社によって異なりますが、一般的に次のようなケースでは健康診断書の提出が必要となる可能性があるでしょう。
住宅ローンの借入金額が高額な場合
がん特約、3大疾病特約、8大疾病特約などの特定の病気をカバーする特約をつける場合
何かしらの理由で保険会社から提出を求められた場合
過去14ヶ月以内に会社などで定期健康診断を受診していれば、結果の写しを提出します。自分で健康診断を受診したうえで結果の写しを提出することも可能ですが、保険会社が定める必要項目が網羅されているかどうかが重要です。
保険会社の求める項目を満たしていない場合、再度追加で受診が必要となることもあるため、事前に項目を確認しておくか、保険会社所定の書面を医療機関に提出したうえで、内容に沿った健康診断を受けるようにしましょう。
健康診断で異常があった場合はどうするの?
もし健康診断で異常があった場合、団信の審査ではどのように対応すればいいのか見ていきましょう。
告知書に書かれている内容の場合
健康診断で異常があった病気や症状が告知書の項目にある内容の場合、たとえ病気の程度が軽かったとしても告知しなければなりません。「軽度だから大丈夫だろう」と告知書に記載しないと、虚偽申告として告知義務違反に該当するおそれがあります。
告知書の内容は保険会社によって異なりますが、内臓に関わる病気・異常、統合失調症やうつ病といった精神疾患、がん、糖尿病等の重大疾患は、原則告知が必要と考えておきましょう。投薬や手術の経験がなくとも、一定期間にわたり医師からの診察、指示や指導を受けた場合でも告知は必要です。
告知書に書かれていない内容の場合
反対に、健康診断で告知書に書かれていない病気や症状が明らかになったとしても、仮に重度であったとしても告知義務はありません。健康診断に異常があるからといって、絶対に団信の審査に通らない=住宅ローンが組めない、というわけではないのです。
あくまでも告知書に記載されている病気や症状があるかどうかが重要なポイント。また、仮に告知書に記載のある病気を患っているとしても、治療状況や治療期間、投薬状況、現在の症状などを踏まえて加入可否を判断されます。告知項目に「はい」と回答した場合でも、審査を通過できる可能性はあります。
告知義務違反に注意
団信の審査で何よりも大切なのは、告知書には正直に回答することです。告知書に事実と異なることを記載した場合には、告知義務違反と判断される可能性があります。
告知書で健康状態を正直に申告することは告知義務とされており、告知義務を守っていることが保険適用の前提条件です。
万が一の事態により団信が適用されることになったとき、詳細を調査した結果「告知義務違反があった」と判断されれば、最悪の場合保険金が下りないこともあるでしょう。保険金が下りないと、家族に返済負担を押しつけることになってしまいます。こうしたリスクを回避するためには、事実を嘘偽りなく告知すべきです。
借入可能額や毎月の返済額をチェック!
告知書の内容はどうなっているのか?
ここで、具体的な告知書の内容について見てみましょう。告知書の質問内容は、金融機関によって少しずつ異なっています。とはいえ、基本的な内容は共通していますので、一般的な告知書の内容をお伝えしておきます。
【1】最近3ヶ月以内に、医師の治療(診察、検査、指示、指導を含む)、投薬を受けたことがあるか
【2】過去3年以内に下記の病名(※病名の一覧については割愛します)で手術を受けたこと、または2週間以上にわたり医師の治療(診察、検査、指示、指導を含む)、投薬を受けたことがあるか
【3】過去1年以内に健康診断、人間ドックを受けて臓器や検査の異常を指摘されたことがあるか
【4】手・足の欠損または機能に障害があるか。または、背骨(脊柱)、視力、聴力、言語、そしゃく機能に障害があるか
通院の履歴や手術の履歴に関しては、万が一、保険金の支払事情が生じた際には、保険会社が保険証の利用履歴を調べれば、履歴の有無を確認することができます。そのため、後々の誤解を招かないよう、完治した症状に関しても、告知期間(上の例では3ヶ月もしくは3年)内のことであれば、その内容を正確に告知する必要があります。
健康診断や人間ドックの結果も該当する場合は告知する
健康診断や人間ドックの結果についても、会社勤めの方であれば、おおむね年に一度は受診されているかと思いますので、その結果を踏まえての告知が必要です。健康診断に関しての確認がない(上の例でいえば【3】の質問がない)告知書も見受けられますが、告知内容に含まれている場合は正確に告知しましょう。
たとえば、健康診断の結果で「要再検査」となった項目については告知が必要ですし、すでに再検査を受けていて「異常なし」となった場合であっても、事実をその通りに告知しましょう。再検査の結果、異常はなかったのだから告知する必要はないだろうと思われるかもしれません。ですが、むしろ告知したほうがベターです。上述したように、告知事項があったからといって即、加入不可になるわけではありません。団信は、住宅ローンという高額な借り入れに対する保障となるものですから、むしろ、告知しなかったことで告知義務違反に問われるリスクのほうを重く考えるべきでしょう。
健康に不安がある人はワイド団信も検討しよう
持病を抱えているなど健康面で不安のある人が住宅ローンを組むときには、通常の団信ではなく「ワイド団信」の利用を検討するのもいいでしょう。
ワイド団信とは、一般の団信に比べて引受条件が緩和された団信のこと。一般の団信では審査で引っかかるような病気でも、ワイド団信なら加入できる可能性があります。ただし、ワイド団信は一般の団信に比べて上乗せ金利が高めに設定されているため、通常より住宅ローンの返済額が大きくなる点は注意が必要です。
【フラット35】なら団信加入が義務ではない
持病や健康不安のある人が住宅ローンを組むには、ワイド団信を利用する以外に、団信加入を義務としていない住宅ローンを利用する方法もあります。
全期間固定金利の住宅ローン【フラット35】は、団信への加入が義務付けられていない住宅ローンの代表格です。【フラット35】なら団信に加入しなくても組むことができるので、持病や健康不安のある人でも心配なく利用できます。
【フラット35】は最長35年の返済期間中、金利が変動しない全期間固定金利の住宅ローンなので、毎月の返済額が一定なのもポイントです。仮に持病が悪化して収入が減少したとしても、途中で返済負担が大きくなる心配がありません。
なお、【フラット35】には民間住宅ローンの団信に相当する「新機構団信」があるので、団信に加入したうえでの利用ももちろん可能です。【フラット35】を住宅ローンの選択肢に加えることをおすすめします。
(最終更新日:2024.05.13)