史上最低水準の「住宅ローン金利」、「住宅ローン控除」、「すまい給付金」、最近では「子育て支援型の【フラット35】」も登場するなど、住宅取得の経済的環境は充実していますが、一方で、住宅価格は上昇して高値圏で推移しています。今回は、「住宅ローン金利や住宅取得の優遇政策」と「不動産市況」のどっちを重視するべきか、“住宅の買い時をどう見極めるか”について考えます。
住宅ローン金利は史上最低水準。一方、住宅価格は上昇気味
住宅ローンの金利は、2016年2月に「マイナス金利政策」が導入されて以降、最低水準が続いています。アメリカの利上げや日銀の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和」の 導入などによって、一時に比べると上昇はしましたが、依然、非常に低い状況です。
一方で、日本不動産経済研究所によると、低金利による需要増加を背景に首都圏を中心に戸建て建売・マンションの平均価格は上昇しています。2016年度における首都圏の中古マンション・中古戸建て住宅の成約件数も2年連続で前年度を上回り過去最高となっており、中古マンションの成約物件の1平米当たり単価は4年連続の上昇。また、中古戸建ての物件価格は3年連続の上昇と都県・地域別で見ても、すべての都県・地域で上昇している状況です。※東日本レインズ調べ
どこに・どのような住宅を取得するかでも変わりますが、住宅ローンは組みやすい状況が続いているものの、首都圏を中心に特に新築住宅は手を出しにくい状況になっているようです。
住宅ローン金利や優遇政策を重視して多少高値になっていても「今買うのか?」あるいは、たとえ住宅ローン控除などの優遇政策が受けられなくても(現時点では、住宅ローン控除・すまい給付金とも平成33年(2021年)12月31日まで)、住宅価格が少し落ち着くまで待って「後で買うのか?」なかなか悩ましいところです。
もし、住宅取得優遇政策がなかったらどのくらい金額は変わるの?
では、仮に住宅ローン控除やすまい給付金などの優遇政策を受けられなかったらどの程度、住宅ローン返済に影響があるのか見てみましょう。
<融資条件と家族構成>
・物件価格:3,500万円、頭金:500万円、借入金額:3,000万円、返済期間:30年、全期間固定金利型【フラット35】、金利1.12%、元利均等返済、ボーナス返済なし
・年収500万円、扶養親族:妻1人
<住宅ローン試算>
・総返済額:3,533万5,440円
・控除等による軽減分:住宅ローン控除:244万円、すまい給付金:10万円
<住宅取得の優遇政策との比較>
「【フラット35】S Aタイプ」であれば、総返済額:3,451万8,360円(金利優遇:当初10年▲0.3%)
「【フラット35】S Aタイプ+子育て支援型」であれば、総返済額:3,414万8,835円(金利優遇:当初5年▲0.55%、6年目~10年▲0.3%)
総返済額 | 金利優遇 | |
【フラット35】 | 3,533万5,440円 | ー |
【フラット35】S Aタイプ | 3,451万8,360円 | 当初10年▲0.3% |
【フラット35】S Aタイプ+子育て支援型 | 3,414万8,835円 |
当初5年▲0.55% |
金利が変わらなければ、という条件ではありますが、このケースでは住宅ローン控除と住まい給付金による負担軽減効果は合計約254万円、【フラット35】Sと子育て支援型を併用した場合でも軽減効果は約372万円(※1)です。確かに、住宅取得優遇制度をフル活用することで、メリットはありますね。
一方で、首都圏マンション平均価格は平成26年と平成28年では430万円も差がありますし、戸建平均価格でも東京圏では平成26年と平成28年では600万円近い差があります。つまり、不動産価格の変動幅の方が住宅取得優遇政策による負担軽減額よりも大きい可能性があるということです。
もちろん、不動産価格が今後下落する保証はありませんが、購入を先延ばしにすることで頭金を増やせること、金利情勢は日銀による金融緩和政策がしばらくは続くことが予想されることも踏まえると、特に今どうしても住宅を取得するほかの理由がないのであれば、住宅取得優遇が受けられるからと言って、高値圏の住宅をあわてて取得する必要はないかもしれません。
住宅の買い時は金利や価格だけでなく、ライフプランも考慮する
金利情勢や住宅取得優遇政策、不動産価格から考えて「買い時」であったとしても、家族の将来を考えたときに本当に「買い時」がどうかはわかりません。家族の将来には、出産、子どもの進学など、さまざまなライフイベントがあり、それらすべてにお金が必要です。住宅ローンの返済期間と子どもの教育費がかかる時期、世帯主の定年まで何年か? 子どもが独立した後にどこに住むか? など家族の将来も含めて総合的にマイホームの購入タイミングを考えることが大切です。
例えば、子どもが生まれたのをきっかけに子育て環境に良い地域に移り住むというケースであれば、多少価格が上昇していても、地域にずっと定住する可能性が極めて高くなるので、早いうちに住宅を購入して早く返済するという判断もできます。あるいは、現役時代は“通勤の便利さ”重視で住居を選び、退職後は“過ごしやすさ”を重視するのであれば、現役時代は賃貸でお金を貯めておき、退職後に住む場所が決まった時点で現金で家を購入する、という選択もあります。
マイホームの取得時期を考える際には、目先の価格や優遇制度の損得だけにとらわれずに、まずライフイベント表を作って、子どもの進学時期、退職時期、配偶者が働く期間、家族のライフイベントの支出時期などを把握して、家計の支出と住宅ローンの返済のバランスをしっかり把握しつつ、将来どこに住むのかも含めて総合的にマイホームの買い時を見極めましょう。
(最終更新日:2019.10.05)