マイナス金利が導入され、長期金利が下がったことを受けて、当初10年固定金利など比較的金利の固定期間が長いタイプの住宅ローン金利が低下しています。変動金利型との金利差が縮まったことから当初10年の金利を固定できるタイプに非常に魅力を感じる人が増えているようですが、どんな点に注意する必要があるのか見てみましょう。
住宅ローンの変動、当初5年、5年、10年固定の金利水準を比較
固定金利期間選択型の「当初10年固定金利型」は、比較的低い水準の金利で一定期間、金利を固定できることから、「全期間固定金利型よりも低い金利で借りたいけれど、変動金利タイプのような金利上昇リスクは避けたい」という人に人気のある金利タイプです。
当初10年間の金利引下げ幅を大きくした商品なので、実際に「変動金利型」と比べても遜色がないくらい金利水準が低く、また「当初5年固定金利型」や「当初7年固定金利型」といった金利プランとの差も少ない状況です。金利の引き下げ幅とは、各金融機関が基準としている店頭金利から実際に引き下げてくれる金利差のことで、引き下げ後の金利を優遇金利といいます。融資を受ける時に適用されるのは優遇金利のほうで、これが実質金利だといえます。それでは、3つの金融機関を例にあげて金利水準を見てみましょう。
<住宅ローンの当初10年固定金利型とその他の金利水準>※2017年3月時点
銀行 |
金利比較 |
A銀行 |
変動金利型:0.497%(頭金20%以上)通期金利引下げ |
B銀行 | 変動金利型:0.799% 当初5年固定金利型:0.838% 当初7年固定金利型:0.856% 当初10年固定金利型:0.856% |
C銀行 | 変動金利型:0.57% 当初5年固定金利型:0.50% 当初10年固定金利型:0.59%(期間限定特別金利) |
以上のように「変動金利型」で組んだ場合と「当初10年固定金利型」の金利差は上記のどの銀行でも0.1%未満と僅差となっています。
“当初10年固定金利”はどんな人に向いている?
では、「当初10年固定金利型」が向いているのはどんな場合なのでしょうか?
【ケース1】
借り入れ当初は新生活とローン返済が始まり、家計が確立していない時期のため、当初10年間は住宅ローン控除の適用も受けられるメリットがある。
そのため、10年間は繰り上げ返済をせずに住宅ローン控除の恩恵を受けながら貯蓄をしておき、金利変動の状況を見て対応する。金利が上昇している状況であれば繰り上げ返済によってローン残高を減らし、固定金利期間終了後の金利上昇の影響を抑える、あるいは改めて金融機関の審査を受けてローンの借り換えをする。
【ケース2】
今はできる限り金利上昇リスクを抑え、低金利メリットも受けたいが、10年後くらいには、給与や賞与も増える予定であり、多少の金利上昇リスクには耐えられる。
【ケース3】
当初は30年間などの長期の借入期間で組むが、途中で繰り上げ返済をすることで、最終的には20年程度で完済する予定である。
【ケース4】
当初固定期間が終了した場合でも、同じくらいの固定金利期間を選択する予定。
【ケース5】
借り入れ当初は金利上昇リスクに家計は耐えられないが、10年後くらいには相続などてまとまった資金が手に入る可能性がある。
このようなケースでは、借り入れ当初の金利水準が低く、10年間という長い期間金利上昇を気にせずに返済ができる10年固定金利タイプは向いているといえるでしょう。
当初10年固定金利型を選ぶ際の注意点
先ほども見た通り、「変動金利型」と「当初10年固定金利型」の金利差は僅差です。
仮に、C銀行で3,000万円を返済期間30年のローンを組む場合(元利均等返済、ボーナス返済なし)、「変動金利型」と「当初10年固定金利型」では当初の月返済額の差はわずか265円です。金利が上昇して、返済額が変わる可能性がある「変動金利型」と10年間は金利変動があっても返済額も金利も変わらない「当初10年固定金利型」であれば、多くの方は10年固定を選ぶでしょう。
ただし注意点もあります。「当初10年固定金利型」を選択する上での注意点は、10年後の金利は決まっていないため、その後の金利状況によっては、当初から「変動金利型」を選択していた場合や「長期固定金利型」を選択していた場合よりも、結果的に金利水準が高くなる可能性がある点です。
したがって、子どもが小さく今は教育費などがかからないけれど、10年後には教育費の負担が重くなるといったケースでは、金利上昇による返済負担増が重なると家計に支障をきたす可能性もあるので注意が必要ですね。
実際に、金利上昇で返済額がどう変わるかをA銀行の例で見てみましょう。
A銀行:借入金額3,000万円、期間30年、頭金20%を入れると仮定
ボーナス返済なし、元利均等返済型、諸費用は考慮せず
変動金利型 :通期引下げ0.497%(基準金利2.775%-2.278%)
当初10年固定金利型:通期引下げ0.96%(基準金利2.26%-1.3%)、固定金利期間終了後は変動金利に変更すると仮定。その場合には基準金利▲1.55%
10年間の金利変化なし |
2年ごとに0.1%ずつ上昇 | 2年ごとに0.2%ずつ上昇 | 2年ごとに0.3%ずつ上昇 | |
変動金利型の月返済額 | 8万9,717円 |
6~10年:9万2,326円 11年目:9万4,766円 |
6~10年:9万4,991円 11年目:10万40円 |
6~10年:9万7,712円 11年目:10万5,543円 |
固定期間終了後、金利変化せず |
固定期間終了後、変動金利基準金利が0.5%上昇 |
固定期間終了後、変動金利基準金利が1%上昇 |
|
当初10年固定金利型の月返済額 |
9万5,941円 |
- |
- |
当初固定期間終了後、変動金利型に変更する場合の11年目の月返済額 |
9万8,431円 (11年目適用金利1.225%、基準金利-1.55%) |
10万3,240円 (11年目適用金利1.725%、基準金利-1.55%) |
10万8,192円
(11年目適用金利2.225%、基準金利-1.55%) |
以上のように、「当初10年固定金利型」で組み、固定金利期間終了後に「変動金利型」に変更する場合、変動金利型(通期引下げ)の場合には、基準金利から常に▲2.278%という大幅な金利優遇がある一方、10年固定(通期引下げ)では当初期間が終了した後は▲1.55%の金利優遇しかないため、金利が変わらない場合だけでなく、多少の金利上昇であれば11年目の月返済額は「当初10年固定金利型」で組んだ方が高くなってしまうことがわかります。
このケースでは、とにかく10年だけは金利上昇リスクを絶対に抑えたいという明確な目的があり、10年後にはまとまった金額の繰り上げ返済が可能な場合や、10年後はそのときに一番有利な住宅ローンに借り換えができる場合などを除いて、「当初10年固定金利型」は適していないことになります。
ちなみに、もし「変動金利型の金利優遇幅=当初期間終了後、変動金利型を選択した場合の金利優遇幅」であれば「変動金利型」よりも「当初10年固定金利型」を選択した方が有利なので、大きな金利優遇がされているタイプの「当初10年固定金利型」を選択する際には、この点をチェックすることが大切です。
なお、実は、同じA銀行の20年固定金利(当初引下げ)の金利は1.06%です。したがって、もし、金利変動リスクに備えるという点で選ぶのであれば、「当初10年固定金利型」よりもむしろ「当初20年固定金利型」の方が適していると考えることもできるでしょう。
まとめ
将来の金利がどうなるか正確なところはわからない以上、どの金利タイプが有利かはあくまでも結果論です。
当初10年固定金利を選ぶのであれば、10年後に金利が1%上昇する、10年後に金利が2%上昇するといった条件で、返済シュミュレーションをしてみましょう。もし、金利上昇した場合の返済増に家計が耐えられないのであれば、10年よりも長期間金利を固定するタイプの方が安心ですし、金利上昇時にまとまった繰り上げ返済をするなど何らかの対処が可能であったり、家計が耐えられるのであれば変動金利で組むという選択も効果的です。
特に金利タイプによる金利差が小さくなっている現在は、目先の金利だけではなく各金利タイプについて何%の金利優遇がいつまで続くのか、さらに付帯サービスやコストも含めて、住宅ローン返済において何を最優先にするのか、しっかり見極めて商品を選択することをおすすめします。
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