住宅ローンの頭金、「2割必要」は昔の話? 少なくていいって本当?

マイホームを購入するためには、物件価格の2割の頭金が必要だと言われます。確かに頭金が少ないと、借入額が大きくなるので、金利の負担も増えてしまいます。ですが、低金利時代の今は、頭金の額によって生じる利息の差はそれほど大きくありません。むしろ、頭金をあえて少なくしたほうが有利なケースもあるのです。低金利時代ならではの頭金の「新」常識について考えてみましょう。

「住宅ローンの頭金は2割必要」はもう古い!?

頭金とは、住宅ローンを組んで住宅を購入する時に現金で支払う自己資金のことです。「頭金=物件価格-住宅ローンによる借入金」といった関係になります。

確かに以前は、【フラット35】などで新築マンションなど新築物件の住宅ローンを借りる場合に、その融資可能額は購入金額の8割までとされていましたし、中古物件の場合でも8割までの金額を融資する金融機関が多く、残りの2割は住宅の購入者が自己資金として現金を用意しなければなりませんでした。マイホーム購入には物件の購入価格の2割を頭金として用意することが必要と言われる理由はそこにあるのではないでしょうか。

しかし、現在では【フラット35】をはじめ、多くの住宅ローンで頭金なし、つまり、物件価格の全額を借り入れることができるようになっています。少々乱暴な言い方になりますが、金融機関が融資の可否を決める審査の対象は、「融資を受ける人の返済能力」と「購入する物件の担保価値」の2つであり、頭金があるかどうかは問題ではないとも言えるでしょう。

金融機関が審査を行う項目に返済負担率(年収に占める返済総額の割合、返済比率ともいう)があります。物件の購入価格が頭金が少なければその分、借入金額が増えるので返済負担率は高くなります。また、返済年数が同じであれば、頭金を入れて借入金額を少なくしたほうが、毎月返済額は抑えられます。ですが、滞りなく返済を続けていけるのであれば、2割の頭金を用意しなくとも大きな問題にはなりません。

また、住宅は生涯で最も高い買い物ですから、それだけの資産価値のあるものを購入することが大切です。つまり、もしも将来、自宅を賃貸に出したり、売却したりする場合、収益を得ることができるような物件を購入するべきと言えるでしょう。

そう考えると、もちろん融資を受ける人の返済能力が十分にあることが前提ではありますが、金融機関が頭金ゼロでも融資をしてくれる物件は、それだけの資産価値があると認められた物件であると言えますし、そうした資産価値のある物件を探すことが住宅購入のポイントでもあると考えられるのではないでしょうか。

頭金を貯めるよりも早く住宅ローンを組んだほうが返済はラク!?

頭金があるほうが融資を受ける額が少なくなるので、その分、返済負担が軽減されてラクになると言われています。もちろん、すでに頭金が十分に用意できている人であればその通りと言えますが、実は、まだ頭金を準備できていない場合には、頭金を貯めるよりも早くローンを組んだほうが返済はラクになる可能性もあります。頭金を貯めている間にも家賃は発生するため、住宅にかかるお金を把握するには、単純に住宅ローンの返済金額だけで比較することはできないからです。

そこで、同じ物件を、【A】頭金ゼロで購入した場合と、【B】5年間で300万円の頭金を貯めて購入した場合、【C】10年間で600万円と頭金を貯めて購入した場合について、総返済額や毎月返済額がどのようになるか、比較してみましょう。購入物件は3,000万円の住宅とし、返済期間については頭金を貯める期間も含めて35年とします。

物件価格:3,000万円
融資条件:全期間固定型で金利2.5%、ボーナス払いなし、元利均等払い
家賃:毎月7万円(5年間で420万円、10年間で840万円)
頭金の積立て:毎月5万円×5年=300万円(頭金物件の1割相当)
頭金の積立て:毎月5万円×10年=600万円(頭金物件の2割相当)

<頭金別 総返済額・毎月返済額シミュレーション>

  【A】頭金0円で住宅購入 【B】頭金300万円で住宅購入 【C】頭金600万円で住宅購入
頭金 0円 300万円(1割) 600万円(2割)
ローン借入額 3,000万円 2,700万円 2,400万円
ローン返済期間 35年間 30年(+頭金積立期間5年=35年間) 25年(+頭金積立期間10年=35年間)
ローン毎月の返済額 107,248円 106,682円 107,668円
頭金積立額 0円 300万円 600万円
頭金積立中の家賃 0円 420万円 840万円
住宅ローン総返済額 約4,504万円 約3,840万円 約3,230万円
35年間住宅にかかる費用(家賃+返済総額) 約4,504万円 約4,560万円 約4,670万円

住宅ローンの総返済額だけを比較すると、【A】の頭金なしの場合が最も大きくなっていますが、家賃を加えて考えると逆に頭金なしの場合の支払額が最も小さいという結果になりました。

このシミュレーションでは、5年後、10年後に住宅ローンを借りる場合についても、金利は2.5%で計算しています。ご存知のように、住宅ローン金利は現在も史上空前の低水準を保っていますが、頭金の積立てをしている間に金利が上昇する可能性もあります。もし、金利が上昇した場合は、5年後、10年後に融資を受けた場合の返済額は、この表の結果よりも大きくなってしまうということも、念頭に置いておいてください。

【ポイント】頭金ゼロで購入したほうが住宅にかかる費用(家賃+住宅ローン総返済額)を抑えられる可能性がある

金利が上昇するかどうかは誰にもわかりませんが、金利水準が低い現在では、頭金ゼロで購入したほうが住宅にかかる費用を抑えられる可能性があることはご理解いただけたのではないでしょうか。

また、現在は健康に問題なくとも、頭金を貯めている間に病気を患い、いざ融資を受けようとした時に、金融機関の審査に通らない可能性もあります。その他、転職や起業の計画のある方は、転職、起業後の数年間は融資を受けることが難しくなることもあります。

このように先のことを考えると、将来の家計収支から考えて無理のない返済計画が立てられるのであれば、頭金が貯まるのを待つよりも、すぐに住宅ローンの融資を受けたほうが有利と言えるのではないでしょうか。また、銀行など金融機関にとっても住宅ローンは非常に貸出リスクの低い商品なので、貸せる場合には積極的に貸したいと考えているようです。

住宅購入資金があっても頭金はあえて少なくしたほうがいい!?

前述では、これから頭金を貯めるケースについて考えてみましたが、すでに頭金が用意できている場合についても考えてみましょう。確かに頭金を支払えば、その分、住宅ローンの借入額を抑えることができるのですが、実は、あえて頭金をゼロにする、または頭金の額を少なくするほうが有利なケースもあるのです。

【頭金は用意できていても、あえて別の用途で活用する】

頭金ではなく貯蓄に回したお金は、住宅費ではなく別の用途に使うことができます。具体的な用途としては、子どもの教育資金の準備があげられるでしょう。中学、高校、大学と進学していく少なくとも約10年間、2人以上の子どもがいれば、それ以上の期間、教育費の支出は多くなります。

その間、住宅ローンの返済を続けながら、多くの教育費を支払っていかなければなりませんが、もし、頭金の支払いのために手持ちの現金を使ってしまったら、最悪の場合、教育費の支払いのために教育ローンを組まざるを得なくなるかもしれません。一般的には住宅ローンよりも教育ローンの金利のほうが高いので、金利の低いローンを減らすために、わざわざ金利の高いローンを借りることになってしまっては本末転倒です。

また、教育資金の他に老後資金の準備もしなければなりません。一般的には、住宅ローンを完済してから老後資金の準備に取り掛かるのでは遅いので、住宅ローンを支払いながら、教育費を賄い、老後資金の準備もしなければならないと言えるでしょう。

これはなかなか大変なことですが、手元の資金を頭金に充ててしまうのではなく、たとえば株式の他、投資信託や保険といった金融商品で、ある程度の長い期間をかけて運用していけば、それなりに老後の生活資金を確保することができるでしょう。現在の住宅ローンの金利水準を考えれば、住宅ローン以上の金利で運用することは決して不可能ではないと思われます。

もともと住宅ローンの金利は、ほかのローン商品よりも優遇されています。住宅ローンは様々なローン商品の中で最も適用金利の低い商品といえるでしょう。現在の低金利の恩恵を最大限に生かすためにも、頭金はあえて少なくして、手元のお金を有効活用することを検討されてはいかがでしょうか。

タイミングを見て繰り上げ返済という手もあるが…

頭金を少なくすると、その分、融資の額が増えるので、できるだけ早く繰り上げ返済をしたいと考える人もいるでしょう。確かに繰り上げ返済をすることで、将来支払う分の利息を支払わなくても済み返済総額も少なくなります。

しかし、繰り上げ返済をするにも現金が必要です。手元の現金が少なくなると家計に大きな影響が出てしまうのは上でお話した通りです。ですから、繰り上げ返済をするタイミングについては、現役中はもちろん、老後の年金生活に入った後の家計までシミュレーションした上で、慎重に判断することをおすすめします。70代になっても80代になっても、予定外の出費や収入の変化から家計が破たんすることも考えられるからです。

繰り上げ返済のタイミングについては、残債が1,000万円になったらとか、退職金が入ったらなどと言われることがありますが、それほど単純な話ではありません。それこそ、100の家計があれば100通り、繰り上げ返済をしていいタイミングはすべて異なっています。くれぐれも慎重に判断するようにしてください。

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(最終更新日:2019.10.05)
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